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『ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』皮肉にも傑作揃いのナチス・ドイツの闇を探究する異色サスペンス
2017.08.19
ナチスの狂気と耽美の両義性を見据えた異色作『ゴールデンボーイ』
よく指摘されることだが、ナチスの恐ろしさのひとつに、人をわかりやすく高揚させるキャッチーな美学を備えていることが挙げられる。『ワルキューレ』のブライアン・シンガー監督は、それ以前にもナチスをモチーフにした『ゴールデンボーイ』(1998年)という映画を撮っているのだが、それはナチスの狂気と耽美の両義性がキモになっている。
原作は人気作家、スティーヴン・キングの小説(『ショーシャンクの空に』や『スタンド・バイ・ミー』の原作を含む名中篇集『恐怖の四季』の一篇)。主人公は1980年代のロサンゼルス郊外で暮らす、表向きは優等生だが、実はナチスへの危険な興味を深めている男子高校生(ブラッド・レンフロー)。そんな彼が、なんと元ナチス将校の戦犯の隠遁老人(イアン・マッケラン)に出会って交流を深めるという異色のミステリー・サスペンスだ。もちらんこちらはフィクション。
史実をソリッドに映画化した『ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』並びに『ワルキューレ』が気に入った人は、ナチスという特異な存在が想像力を刺激する、一風変わった応用編として『ゴールデンボーイ』に駒を進めてみるのはいかがだろうか。なお、ブライアン・シンガーがユダヤ系であることは最後にしっかり記しておきたい。
文: 森直人(もり・なおと)
映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「メンズノンノ」「キネマ旬報」「映画秘宝」「シネマトゥデイ」などで定期的に執筆中。
2017年8月12日(土)より新宿武蔵野館他全国順次公開
※2017年8月記事掲載時の情報です。