2018.04.23
10年以上も前に出会い、ずっと温め続けてきた脚本
最新作『さよなら、僕のマンハッタン』は、マーク・ウェブのフィルモグラフィーを俯瞰する上でも非常に重要な映画だ。何しろ彼が『(500)日のサマー』よりも前に脚本と出会い、それ以降ずっと温め続けてきた企画だからだ。そんな原点とも呼ぶべき作品を今なぜ持ち出してきたのか。それは彼に、そうしなくては前に進むことができない事情があったからに違いない。筆者はそこに『アメイジング・スパイダーマン』シリーズの続編製作がキャンセルされたことなどが大きく関わっているのではないかと推測する。
多くの人が知るように、ウェブ版『スパイダーマン』は2作が製作され、これから更なるアクションバトルのうねりの中に身を投じようとするところで、突如シリーズ中止の宣告が行われた。その経緯についてはwikiってもらったほうが詳しいと思うが、とにもかくにも情熱を傾けて大事に育ててきた主人公や企画を失い、彼は相当苦しんだはずだ。以前取材で会った彼はこの時の心境について「辛かった。でも決して立ち止まりたくなかった」と語っていた。傷跡をこじ開けるようなのでそれ以上は聞けなかったが、これは立ち止まって冷静に事態を受け止めるとショックや悔悟も大きくなるばかりなので、むしろ忙しく動き続けることで、痛みを忘却したいという思いがあったことは容易に想像できる。
『さよなら、僕のマンハッタン』© 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
そんな心境を抱えながら、彼が“立ち止まらず”に選び出した『 ギフテッド』(2017)と『さよなら、僕のマンハッタン』の二本の脚本は、どちらもやっぱり「自分は何者なのか」「才能をどう生かすべきか」というテーマを、これまで以上に深く自問する内容のものだった。二本とも『スパイダーマン』に比べるとかなり小規模な、手作り感覚に溢れたヒューマンドラマである。『(500)日のサマー』のような華やかさはないが、しかしかつてのウェブには描くことのできなかった人と人との絆、愛情、人の痛み、複雑な人間関係の方程式がしっかりと刻まれていたように思う。