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『ビューティフル・デイ』監督リン・ラムジーの苦悩と再生から見えてくるもの

『ビューティフル・デイ』監督リン・ラムジーの苦悩と再生から見えてくるもの


ラムジーの人生と重ねることで見えてくるもの



 辿り着いたのはギリシア、サントリーニ島。気分転換の意味もあったろうし、心の整理をつけたいという気持ちもあったろう。


 彼女が滞在した先は、電気やネット環境も十分とは言えない地域。不自由さはあってもまったく苦にはならなかった。そこには眩しい陽光が降り注ぎ、美しい自然が広がっていた。それだけで十分だった。この地で彼女は久方ぶりに写真を撮り始めたという。そして徐々に回復を遂げるとともに、映画の脚本執筆にも着手し始める。


 それだけではない。サントリーニ島で暮らした再生の日々の中で、彼女は新たなパートナーと出会い、新しい生命を授かることになる。そして出産―――。本作『ビューティフル・デイ』は、まさに彼女が混沌から這い出てもう一度輝きだす過程の中で、ともに育まれてきたものなのだ。




 映画の中では過去に様々なトラウマを抱えた主人公ジョーが、心に突き刺さって抜けない記憶にもがき苦しみながらも、それでもプロとして、一人の人間として、囚われの少女を奪還しようと命を賭ける。


 映画と人生とは別物だ。そうと分かってはいても、彼女のこの運命の流転が、少なからず『ビューティフル・デイ』の中に何らかの影響をもたらしているように思えるのは私だけだろうか。


 例えば、主人公ジョーをラムジーと重ねたなら、彼女が自分の信念を貫き通すために極限まで戦ってきた姿が濃厚なまでに浮かび上がってくる。バイオレンスの激しさが、その戦いの凄まじさ、傷跡の深さを物語っているかもしれない。


 他方、ラムジーを少女と重ねたなら、ここでは人生のどん底に陥った彼女が、やがて陽光の輝く場所へと救い出されていく過程が如実に浮かび上がる。




 映画の中でジョーと少女が一心一体に重なって見えるように、リン・ラムジーの心情もきっと、ジョーと少女の両方と少なからずシンクロを遂げていたのだろう。とりわけ映画のラストに放たれる “たった一言のセリフ”は、ラムジーの文脈で読み解くことで輝き方が変わってくる。これは人生の紆余曲折を経たから今だからこそ口にできる、ラムジーの偽らざる本心に違いない。


 本作をすでにご覧になった方も、今一度、彼女の過ごしてきた日々を重ね合わせて味わってみて頂きたい。きっと本作が混沌や葛藤を描きつつ、生の輝きに満ちた映画でもあることがひしひしと伝わってくるはずだ。


参考)

http://www.heraldscotland.com/news/16076932.Lynne_Ramsay_on__dad_bods___her_new_film_and_why_Glasgow_is_great_for_sci-fi/

https://www.theguardian.com/film/2018/feb/25/lynne-ramsay-director-you-were-never-really-here-observer-interview



文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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作品情報を見る


『ビューティフル・デイ』

新宿バルト9ほか全国公開中

配給:クロックワークス

Copyright ©Why Not Productions, Channel Four Television Corporation, and The British Film Institute 2017. All Rights Reserved.

©Alison Cohen Rosa / Why Not Productions

©Why Not Productions, Channel Four Television Corporation, and The British Film Institute 2017. All Rights Reserved.


※2018年6月記事掲載時の情報です。

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