『クレアのカメラ』あらすじ
映画会社で働くマニ(キム・ミニ)は、カンヌ国際映画祭への出張中に、突然社長から解雇されてしまう。帰国日を変更することもできず、一人カンヌに残ることにしたマニは、ポラロイドカメラを手に観光しているクレア(イザベル・ユペール)と知り合う。クレアは、自分が一度シャッターを切った相手はもう別人になるという自説を持つ、不思議な人物だった。そこで二人は、マニが解雇を言い渡されたカフェに行き、同じ構図で写真を撮るのだが……。
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中篇だけど大満足! 『クレアのカメラ』が素敵な映画に仕上がった3つの理由
ただいま絶賛開催中! 今年の6月から四本立て続けに日本公開されている韓国の異才監督、ホン・サンスの新作上映。さしずめ「キム・ミニ主演シリーズ」とでも呼びたい今回のラインナップ――『 それから』『 夜の浜辺でひとり』『 正しい日 間違えた日』に続き、いよいよトリを飾るのが7月14日公開の『クレアのカメラ』である。69分の中篇サイズなので、オマケっぽい印象を持たれているかもしれないが、監督のファン、並びに先行の三作が気に入った方々は、絶対に観逃さないで欲しい。これがいちばん好きっていう人がいてもおかしくないほど、本当に素敵な作品なので。
『クレアのカメラ』© 2017 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.
まずは素敵な理由、その1。美しいヒロインがふたりいること。
ひとりはもちろん、現在ホン・サンスの公私に渡るパートナー(という名の、お騒がせ公認不倫カップル)であるキム・ミニ。そしてもうひとり、フランスの至宝と評される大女優、イザベル・ユペールも主演している。
ユペールといえばすでに40年以上のキャリアを誇るベテランだが、作家性の強い意欲作を支援するかのように選んで出演し、多くの映画人に厚く信頼され、新鋭監督からも頻繁にラブコールが掛かる現役の人気沸騰っぷりで知られる。最近ではポール・ヴァーホーヴェン監督の『 エル ELLE』(2016年)で米国のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされるなど、なんと65歳(1953年生まれ)にして黄金期を迎えている稀有な女優さんだ。ホン・サンスの監督作には2012年の『 3人のアンヌ』に主演しており、今回が二度目のコラボレーション。つまり監督の二大ミューズ、最強のWヒロインが同じフレームの画面に収まっているという、なんとも贅沢な幸福感にあふれた一本になっているのだ。
『クレアのカメラ』© 2017 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.
さらに素敵な理由、その2。舞台がフランスのカンヌであること。
というのも、実は本作の撮影は、2016年5月、イザベル・ユペールが先述の『エル ELLE』で、キム・ミニがパク・チャヌク監督の『 お嬢さん』で、第69回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に参加していた機会を利用して行われたのだ(参加作は共に受賞はならなかったが)。ちなみにホン・サンスがフランスで映画を撮るのは『 アバンチュールはパリで』(2008年)に続き二度目。『3人のアンヌ』は韓国の海辺の街モハンが舞台だった。そしてユペールは、『ヴィオレット・ノジエール』(1978年・日本では特集上映のみ)と『 ピアニスト』(2001年)でカンヌ国際映画祭の主演女優賞に二度も輝いている。その意味で、『クレアのカメラ』は女優ユペールのゆかりの聖地での撮影ということになる。
『クレアのカメラ』© 2017 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.
ところで本作の撮影期間は、わずか数日だったらしい。言わば映画祭参加という“お仕事”の合間のオフタイムに、堂々と一本の映画を立ち上げてしまったわけで、どんだけコスパが良いんだ!って話である(笑)。ホン・サンスとはなんて凄いヤツなのか。これは国際的な大スター女優を使ったプロの自主映画であり、非常にリラックスしたムードの漂う南仏のヴァカンス映画だ。ちょっとした隙間の時間だけでユニークな映画をサクッと生み出してしまった、まるで魔法のような軽やかさ。それが『クレアのカメラ』が素敵な理由のその3である。