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『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』米大統領選に翻弄されながらも、作り手たちが貫いた想い

©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』米大統領選に翻弄されながらも、作り手たちが貫いた想い

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『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』あらすじ

全米女子テニスチャンピオンのビリー・ジーン・キングは怒りに燃えていた。全米テニス協会が発表した次期大会の女子の優勝賞金が、男子の1/8だったのだ。仲間の選手たちと“女子テニス協会”を立ち上げるビリー・ジーン。資金もなく不安だらけの船出だったが、著名なジャーナリストで友人のグラディス・ヘルドマンがすぐにスポンサーを見つけ出し、女子だけの選手権の開催が決まる。時は1973年、男女平等を訴える運動があちこちで起こっていた。女子テニス協会もその機運に乗り、自分たちでチケットを売り、宣伝活動に励む。


トーナメントの初日を快勝で飾ったビリー・ジーンに、かつての世界王者のボビー・リッグスから電話が入り、「対決だ! 男性至上主義のブタ対フェミニスト!」と一方的にまくしたてられる。55歳になって表舞台から遠ざかったボビーは、妻に隠れて賭け事に溺れていたのがバレ、夫婦仲が危機を迎えていた。再び脚光を浴びて、妻の愛も取り戻したいと考えたボビーの“名案”が、男対女の戦いだった。


ビリー・ジーンに断られたボビーは、彼女の一番のライバルであるマーガレット・コートに戦いを申し込む。マーガレットは挑戦を受けるが結果は完敗、ボビーは男が女より優秀だと証明したと息巻くのだった。逃げられない運命だと知ったビリー・ジーンは、挑戦を受ける。その瞬間から、世界中の男女を巻き込む、途方もない戦いが始まった──!


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米大統領選がもたらした社会状況の変化



 映画というものは、製作開始から劇場公開までの隔たりが複数年に及ぶケースがほとんどだ。その間、社会状況が大きく変容してしまう場合もあるし、そういった場合、作品の本質は一貫して変わらずとも、観客側で作り手の予想をはるかに超えた反響が巻き起こる可能性だって大いにありうる。


 例えば、2017年のアカデミー賞では大方の予想を覆して『 ムーンライト』が作品賞オスカーを受賞した。その作品の素晴らしさは当然としても、本作がここまで高い評価を集めた背景には、それを後押しするような、沸々と湧き上がってきた社会状況(アカデミー会員やオスカー候補者に占める白人層の割合、つまり“ホワイトウォッシュ”への批判であったり、あるいは大統領選の中で頻発した多様性を脅かすような発言への反動であったり)があったのは言うまでもない。


 その意味では『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』もまた、社会状況によって少なからず影響を受けた映画と言えるだろう。性差別の撤廃を求めて、女子テニス王者のビリー・ジーン・キングが元王者のボビー・リッグスと伝説的な「性差を超えた戦い」を繰り広げるこの物語は、2013年頃から少しずつ企画が温められ、2015年には本格的な準備段階へと突入した。いよいよ撮影開始を迎えたのは翌年の2016年、春。奇しくも時節は米大統領候補予備選挙のまっただ中で、史上初めての女性候補者が現れようとしていた頃である。ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリスら夫婦監督は、こういったベストなタイミングが重なったことで「(この映画によって)現代社会が1973年に比べていかに進化を遂げたかについて描ける」と思っていたそうだ。



『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation


 だが、歴史はそんな単純な未来など用意していなかった。誰もが知る通り、大統領選には巨大ライバルが立ちはだかり、その存在感は日に日に大きくなっていった。激戦の最中には他者への容赦ない攻撃や、少数派の人々や女性への敬意を欠くような発言も度々撒き散らされた。そしていつしか女性候補者は敗れ、代わりに予想もしなかった候補者が、大統領として国を率いることとなった。そういった現代社会のうねりの中で、筋書きそのものは当初から全く何も変わっていないにも関わらず、映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』のトーンは不可思議なほど豹変してしまったという。


 よく知られた話だが、ハリウッドでは映画の製作途中にテスト試写を実施し、観客の反応を確かめるという作業が頻繁に行われる。時にはこの結果によって映画の流れや結末などが大きく変えられることもあるほどだ。



『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation


 もちろん本作も幾度となくテスト試写が行われた。そして内容はほとんど変わっていないにもかかわらず、大統領選の前と後とでは観客の反応が全く異質なものへと変わっていたという。選挙後に試写した観客の多くは、映画が描く1973年の状況を生々しく受け止め、「ここに描かれている状況は、決して過去のことなどではない!」と感じたのだ。多少予想していた結果とはいえ、これほどの受け止め方の変化を目の当たりにしたことは、作り手側にとっても大きな衝撃だったという。



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