2018.07.21
政治的な断絶を乗り超え、つながりや交流をもたらす映画へ
かくも製作者たちの眼前に大きく立ちはだかった米大統領選ではあるものの、その結果がファイナル・カットに影響を及ぼすことはなかったそうだ。むしろジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス監督が何よりも心がけたのは、本作が共和党批判やトランプ批判の映画だと解釈されないように最善を尽くすということだった。
彼らは政治的なメッセージを持った作品を作りたかったわけではないし、本作が民主党寄りとして受け止められることも不本意だったという。これは政党や主義主張などに絡めとられることなどなく、平等を愛し、自由を希求するあらゆる人々に向けて大きく開かれた映画なのだ。それこそが彼らの譲れない共通認識だった。
『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
ビリー・ジーン・キングの語った言葉にこんなものがある。
「私がボビーと戦ったとき、皆がこの試合は人々をバラバラに分断するものだと思っていた。しかし実際には、多くの人々が活発に議論したり、意見を交換したりして、つながりを作るきっかけをもたらした」
この映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』の存在意義もまさにそこにあるのかもしれない。大統領選の影響をもろに食らいながらも、夫婦監督は時流に翻弄されてジタバタすることはせず、初志貫徹して作りたいものを作り、伝えたい物語を語り尽くそうとした。それゆえこの「繰り返される歴史」の中で、過去にも現在にも未来にも開かれた、ある種の普遍性を持った作品が生まれたのである。
『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
大統領選をきっかけに社会の分断はますます複雑化の一途をたどっている。さらに男女平等をめぐる潮流は「MeeToo」運動を経てさらなる激動の最中にある。そのいずれにも不可欠なのは、やはり人々が自分の意見に閉じこもることなく、積極的に議論し、意見を交換し、つながり合うこと。そしてその潮流を過去のものとせず、決して絶やさないこと。
1973年の伝説のテニスマッチがそうであったように、本作はこれからも多くの観客に高揚と感動と、そして「議論する場所、つながり合う場」をもたらしてくれるはず。そうやって、すべての人々が輝き合う未来へ向けた“道しるべ”となってくれることだろう。
参考:
https://www.newyorker.com/magazine/2017/09/11/the-married-directors-behind-battle-of-the-sexes
https://uproxx.com/movies/battle-of-the-sexes-jonathan-dayton-valerie-faris/2/
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
2018年7月6日 全国順次ロードショー
公式サイト: http://www.foxmovies-jp.com/battleofthesexes/
©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
※2018年7月記事掲載時の情報です。