会話がビートを刻む
「リバースエッジ 大川端探偵社」(14)の森雅樹(EGO-WRAPPIN')、『バクマン。』のサカナクション、『SCOOP!』の川辺ヒロシ(TOKYO No.1 SOUL SET)、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(18)の 小室哲哉、「共演NG」(20)の堀込高樹(KIRINJI)と、大根仁作品ではトップ・アーティストがサウンドトラックを担当することが多い。音楽に造詣が深い彼だからこそ、劇伴作曲家に丸投げすることなく、作品のトンマナに適した一流クリエイターを招聘する。
そして「地面師たち」の音楽を手がけたのは、石野卓球。言わずと知れた電気グルーヴのメンバーであり、テクノ・シーンの第一人者だ。『DENKI GROOVE THE MOVIE?〜石野卓球とピエール瀧〜』(15)を作った大根仁とは、旧知の仲でもある。意外にもこれまで劇伴を手がけることはなかったのだが、たっての願いで今回登板することとなった(ちなみにサントラ盤のマスタリングを担当しているのが砂原良徳で、ドラマにはピエール瀧が出演している訳だから、期せずして電気グルーヴのオリジナル・メンバーが集結したことになる)。
サウンドトラックを一聴してみると、重いベースライン、ゴリっとした重低音が鳴り響くダーク・エレクトロ。四つ打ちのビート感は剥奪され、陰鬱としたサウンドスケープが広がっている。トレント・レズナー&アッティカス・ロスが手がけた、『ゴーン・ガール』(14)や『ザ・キラー』(23)のサウンドにも近い感覚。大根仁は打ち合わせの席で、石野卓球が2016年にリリースした「LUNATIQUE」の路線を提案したというが、このアルバムには明らかにダンス・ミュージックのノリが息づいていた。「地面師たち」の場合は、なぜここまで“ビートを感じさせない”設計にしたのだろうか。
Netflixシリーズ「地面師たち」©新庄耕/集英社
おそらくこのドラマのビートを刻んでいるのは、俳優たちの会話そのものだ。リーダーのハリソン山中(豊川悦司)、交渉役の拓海(綾野剛)、法律屋の後藤(ピエール瀧)、手配師の麗子(小池栄子)、図面師の竹下(北村一輝)が繰り広げる会話が、一定のBPMを刻み、グルーヴを生み出す。画面がちょっと揺らいでいる不安定なミディアム・ショットを、小気味好いテンポでどんどん切り返していく。だからこそこのドラマの劇伴は、ビートレスなダーク・エレクトロで全然OKなのだ。
さらに言えば、地面師の面々が発する声そのものが、まるで楽器のように機能している。高圧的な関西弁を撒き散らすピエール瀧、それに拮抗するようにまくしたてる小池栄子。この2人がメインとなってメロディをかたちづくり、低音トーンの豊川悦司と、柔らかな口調の綾野剛が全体を包み込む。そして時折、北村一輝のケンカ口調がアクセントとなってサウンドに刺激を与える。
「地面師たち」がめっぽう面白いのは、アクの強い俳優陣によるアクの強い芝居が、ビートを刻みグルーヴを生み出すことで、会話そのものがザッツ・エンターテインメントになっていることなのだ。