大根仁の卓越した映像センス
もちろん、大根仁らしい映像センスも炸裂している。例えば、石洋ハウスの青柳部長(山本耕史)一行が、初めて拓海&後藤と商談する場面。土地買収額を103億円で想定していた石洋ハウス側は、120億円という金額を提示されて窮地に陥る。地面師サイドの揺さぶりに、精神的に追い詰められていく青柳。次第にカメラの被写界深度は浅くなり、彼の横にいるメンバーたちがピンボケしていく。決して仲間たちを信用せず、唯我独尊スタイルを貫いてきた青柳が、孤独に戦っていることを示す素晴らしいショットだ。
もしくは、ハリソン山中が無慈悲に殺害を行うときに、必ず風がそよいでいる演出。警視庁捜査二課の下村刑事(リリー・フランキー)に飛び降り自殺を強要する場面では、背景で薄汚れた半透明のカーテンが風で揺れている。まるで黒沢清のホラー映画のように、画面全体を包み込む不穏な空気。人の死に興奮を覚えるというハリソン山中の心の高まりと連動して、その長髪も風で揺れている。
仲間を裏切った竹下をタコ殴りして、廃屋に監禁する場面もしかり。ここでも半透明のカーテンが風で揺れ、ハリソン山中の髪が揺れている。そして、「最もフィジカルで、最もプリミティブで、そして最もフェティッシュなやり方でいかせて頂きます」と宣言すると、スマホで録画しながら竹下を蹴り殺す。風という自然現象を、大根仁は狂気のメタファーとして有効活用している。
Netflixシリーズ「地面師たち」©新庄耕/集英社
夜の都会を艶かしく切り取る、ラグジュアリーなルックも素晴らしい。高層ビルから高輪台を見下ろすショットの、なんという美しさ。夜の繁華街を車で移動するショットの、なんという煌めき。マイケル・マン監督が演出したクライム・ドラマ「TOKYO VICE」(22、24)の夜景ショットとはまた異なる、恍惚と官能性。「地面師たち」は土地をめぐる物語なのだから、その土地が貧相に映ってしまっては元も子もない。真の主役ともいえる東京の街を、大根仁はこれ以上ないくらいにエロティックに描き出した。
役者陣もみな素晴らしいが、筆者が特に驚愕したのがチンピラ役のアントニー。ご存知、お笑いコンビ・マテンロウのボケ担当である。アフリカ系アメリカ人と日本人のあいだに生まれたハーフで、180センチをゆうに超える巨躯は、一目見たら忘れることのできないビジュアル。そして何よりも、全身から醸し出されるチャラい感じ!バラエティ番組「水曜日のダウンタウン」の企画で、タレントのアレクサンダー、格闘家の皇治がいる怪しい飲み会に彼も参加していたのだが、THE芸能界に染まりきっている感がハンパなかった。「
おそらく大根仁は、アントニーのそんなオフィシャル・イメージを利用して、今作のオファーをかけたのだろう。今や威風堂々たる巨匠だが、そういうあたりに目配せできるのがサブカル・キングたる所以。容赦のないダークヒーローものであっても、どこかポップなテイストを感じさせてしまう。90年代 is not deadなサブカル崩れの自分にとって、大根仁は常に憧れの存在であり続けている。
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
Netflixシリーズ「地面師たち」
Netflixにて世界独占配信中
©新庄耕/集英社