映像+音を融合させる才能は、数々の名作を生み出す
こうして脚本担当ながら、監督としての一歩を踏み出したアラン・パーカーは、『小さな恋のメロディ』の後、コピーライターの仕事を辞め、映画の道へ進もうとするが、少ないキャリアゆえにしばらくチャンスに恵まれず、CMの監督などで食いつないでいた。そんなパーカーが満を持して長編監督デビューしたのが、1976年の『ダウンタウン物語』。製作総指揮は、盟友のデヴィッド・パットナムである。当時14歳だったジョディ・フォスターなどキャストは全員子役という異例のミュージカル映画は評判を呼び、続く監督第2作の『ミッドナイト・エクスプレス』(これもパットナム製作)が、自身の監督賞を含めてアカデミー賞で6部門ノミネートされ、うち2部門受賞を達成。世界的な一流監督の仲間入りを果たすことになる。
『小さな恋のメロディ』© Photofest / Getty Images
そんなアラン・パーカーのキャリアを振り返ると、『小さな恋のメロディ』での経験が要所で生かされてきたことに気づく。社会派や人間ドラマも得意なパーカーだが、何と言っても「映像+音楽」の達人という特徴が際立っているからだ。NYの芸術専門学校を舞台にした『フェーム』での路上や食堂でのダンスシーン、バンドの結成を描いた『ザ・コミットメンツ』でのライブシーンの盛り上がりなど、音楽がキーポイントになる作品では演出が冴えわたる。ミュージカルの『エビータ』も同様で、主人公のエヴァがブエノスアイレスへ向かう列車のシーンの演出など、異様なほどの高揚感はアラン・パーカーならでは。
知られざる傑作は『ピンク・フロイド ザ・ウォール』で、名アルバムの曲に乗せながら、ほぼセリフなしで展開するMTVの超ロングバージョンのような野心的な作り。映像にもアニメが使われたり、ショッキングな演出もあったりとカルト系テイストなのだが、アラン・パーカーの「音楽+映像」の並々ならぬ才気が溢れており、『小さな恋のメロディ』にその原点をたどることも可能ではないだろうか。