この道をトレイシー・ハイドが歩いていた
また、これも才能の「原点」ということなら、『小さな恋のメロディ』の撮影を務めたピーター・サシツキーは、その後、『ロッキー・ホラー・ショー』や『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』などを経て、デヴィッド・クローネンバーグ監督作品の常連となった。『小さな恋のメロディ』。は、名カメラマンのキャリアの初期作品として記憶される。
こうしてさまざまな「原点」をたどり、ややこじつけになるが、撮影の「原点」であるロケ地は50年近く経ってどうなっているのか? 多くの人の記憶にやきついているラストの結婚式とトロッコのシーンの場所は、当然ながら再開発が進んで当時の面影は残っていないし、舞台となった学校は廃校になったが(建物自体は現存)、ダニエルとトムがうろつく、観光名所であるピカデリー・サーカスの周辺、たとえば公園(ソーホー・スクエア)などのロケ地はそのまま残っている。
そしてこれも今作の記憶とともに忘れがたい、『メロディ・フェア』が流れるシーン。メロディが自宅の洋服をこっそり持ち出し、物売りの金魚と交換して町を歩くのだが、金魚を放す道端の石の池(当時はまだ馬車が通行しており、馬の水飲み場だった)は、現在、草花が生い茂っているがそのまま現物が残っている。
ロンドンのランベス通りの交差点にひっそりと位置する 撮影:斉藤博昭
この後、金魚を手にしたメロディが、父親が昼間から入り浸るパブへ向かい、おこづかいをもらう。そのパブも現存し、営業を続けている。店の名前は数年前に変わったが、外観は撮影当時のままである。
外観は当時のまま 撮影:斉藤博昭
『小さな恋のメロディ』はイギリスではまったくヒットしなかったので、ロケ地巡りをするのは、わずかに日本人のファンくらいだという。そのため妙に「観光地化」されていないのもうれしい。古い建築が長年、維持されているロンドンだからこそ、半世紀も前の映画のロケ地を訪ねることも可能になる。こうして愛する作品の「原点」に実際に触れることは、映画ファンにとって変えがたい経験になるはずだ。
文:斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。スターチャンネルの番組「GO!シアター」では最新公開作品を紹介。
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