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緻密なスパイ・スリラーを際立たせた、夫婦脚本家の脚色術『裏切りのサーカス』

緻密なスパイ・スリラーを際立たせた、夫婦脚本家の脚色術『裏切りのサーカス』



パーティの引き際を見失った男たちの彷徨



 “パーティ”と言えば、序盤のミーティングでジョン・ハート演じる“コントロール”が口にするこんなセリフがあった。


「男たるもの、パーティの引き際は心得なければならぬ」


 これを後のクリスマス・パーティへ向けた伏線と捉えると、おのずとこのダンス・フロアそのものが、世界情勢のみならず、彼らスパイの心情をも大いに集約させた大海原のように思えてくるから不思議なものだ。


 そこでは意味深な目線のやり取りがあり、親密な愛も描かれる。忘れがたい裏切りや目撃もある。そして、とりわけ印象的なのは、メインとなる人物たちがそれぞれに複雑な思惑を抱えながら、どこか「パーティの引き際を見失ってしまった」かのように佇む姿であろう。そのうつろな表情は、自分の居場所がここにあるのかどうかを自問しているようにも見える。それともこうやってウロウロすることそのものが、彼らなりのダンスのたしなみなのだろうか。




 いずれにしても、宴もたけなわ、フリオ・イグレシアスのヒットナンバー「La Mer(海)」と共に描かれるエピローグでも、その多くが椅子に腰を下ろすことなく、自分なりのやり方で音楽と心を同期させ、哀愁に満ちたステップを踏み続けているように思える。いわば、人生は「自分の座るべき場所」をひたすら求め続ける彷徨のようなもの。だからこそ曲のフィナーレとともにラストカットで席に就くスマイリーの姿からは、ようやく自分の居場所を見つけた安堵の心情すら見て取れる。一見ストイックにも思えるスパイ小説を、かくも潤いと人間味を織り交ぜた筆致で生まれ変わらせたブリジット&ピーターの脚色力には本当に唸らされるばかりだ。


 ちなみに本作は、女性脚本家のブリジット・オコナーに捧げられている。癌を患っていた彼女は夫と共に書き上げたこの脚本を遺し、撮影開始の一週間前に亡くなったという。おそらく余命わずかであることを知っていたであろう二人は、いったいどんな思いを抱えながらセリフのひとつひとつを織りなしていったのだろうか。一筋縄ではいかない情感と緻密さで彩られた映画『裏切りのサーカス』を鑑賞するたび、この共同脚本が二人のプロフェッショナリズムの結晶であり、なおかつ彼らにしか成しえない特殊な愛のかたちでもあったことを、改めて深く思い知らされるのである。


参考)

https://deadline.com/2012/02/oscars-peter-straughan-tinker-tailor-soldier-spy-232106/



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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発売元:ギャガ 販売元:ハピネット

(C) 2011 Karla Films Ltd - Paradis Films sarl - Kinowelt Filmproduktion GmbH. All rights reserved.

Photos: Jack ENGLISH (C)2010 STUDIOCANAL SA. All rights reserved.

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