1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 裏切りのサーカス
  4. 緻密なスパイ・スリラーを際立たせた、夫婦脚本家の脚色術『裏切りのサーカス』
緻密なスパイ・スリラーを際立たせた、夫婦脚本家の脚色術『裏切りのサーカス』

緻密なスパイ・スリラーを際立たせた、夫婦脚本家の脚色術『裏切りのサーカス』

Index


夫婦脚本家が身を投じた無謀とも言える挑戦



 英国文化の持ち味は伝統と革新にあるとよく言われるが、70年代に発表された傑作スパイ・スリラーが、こうして装いも新たな映画として蘇った根底にも、きっとその精神が脈々と流れているのだろう。


 そもそも『裏切りのサーカス』の映画化へ向けた最初の着火点となったのは脚本家ピーター・モーガンだった。『クィーン』(06)や『フロスト×ニクソン』(08)を持ち出すまでもなく、知られざる歴史の一点をダイナミックなドラマに仕立て上げることで知られるモーガン。すっかり英国を代表する書き手となった彼に、この難解なプロットを持つスパイ・スリラーへの挑戦はピッタリに思われた。しかしこの頃、モーガンの母が重篤な病であることが判明し、家族が共に過ごす時間を確保するためにも、彼はドラフト(草稿)を執筆した時点でこの作品から降板することを決める。


 ブリジット・オコナーとピーター・ストローハンのもとに一本の電話がかかってきたのは、それからしばらくしてのことだった。この時、通話の相手でもあるワーキング・タイトルの担当者は彼らに「伝説的なスパイ小説の脚色を引き受ける気はないか?」と尋ねたのだ。


 実生活の夫婦であり、それぞれが名の知られた脚本家でもある彼らは正直うろたえた。彼らは取り立ててスパイ小説が得意なわけでも、このジャンルに詳しいわけでもなかった。その上、本作は原作小説といい、TVドラマシリーズといい、コアなファンの多い作品だ。TV版7話分に相当するボリュームを2時間に収めるのも土台無理な話。かなりのリスキーな挑戦となることは目に見えていた。




 だが一方で、原作者のジョン・ル・カレも彼らへの協力を惜しまないと言うし、何より監督として『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)で異色の世界観を描いたトーマス・アルフレッドソンが決まっていたことが彼らの心を強く惹きつけたという。


 ちなみにアルフレッドソンはスウェーデン出身。彼が監督に決まるまでには韓国人監督パク・チャヌクにも打診があったというから、この作品のプロデューサーは英国伝統のスパイ・スリラーの映画化にあたり、どこか外の世界から内側を見つめたような、特殊な視点や手触りを持ち込みたかったのは明らかだ。


 とにもかくにも、ブリジット&ピーターはこのオファーを承諾し、無謀ともいうべき挑戦へと漕ぎだした。単に原作をコンパクトにするだけの発想では到底間に合わない。緻密に構築された原作のストーリーをいったんバラバラに崩し、それをまた再創造するくらいの取り組みが必要だ。


 ナーバスに陥った彼らの救いとなったのはやはりこの男、ジョン・ル・カレだったそうだ。「何かわからないことや困ったことがあれば、すぐに電話してくれ」との言葉を頼りに、夫婦はアイディアに煮詰まった時や事実確認が必要な時には、すぐにこのスパイ小説の巨匠へ相談の電話を入れた。


 なおかつル・カレは「私の側から注文をつけることはしない」「小説と映像は全く別物だから、自由に脚色してくれていい」という姿勢を貫き、むしろ二人に、原作のどこにもないような映画独自のシーンを作り出すようなチャレンジを、大いに奨励したのだそうだ。原作の誕生から40年以上の年月が経過し、このストーリーが現代にふさわしいアップデートを遂げるのをいちばん強く望んでいたのは、他ならぬル・カレ自身だったのかもしれない。



PAGES

この記事をシェア

公式SNSをフォロー

新着うんちく

NEWS / 特集

人気うんちく

上映中のおすすめ作品

counter
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 裏切りのサーカス
  4. 緻密なスパイ・スリラーを際立たせた、夫婦脚本家の脚色術『裏切りのサーカス』