Index
- 元スパイが書いた、冷戦期のリアルすぎるスパイ小説
- 頭脳戦でとことん相手を追い詰める老スパイ
- 小説やTVシリーズの大ヒットがもたらしたもの
- 当時の社会の空気を一変させた二重スパイ事件
- 裏切り者に対して注がれる、ル・カレ独特のまなざし
元スパイが書いた、冷戦期のリアルすぎるスパイ小説
英国にはスパイ小説という伝統がある。そのジャンルで名を馳せた作家たちの中には、実際のスパイ、あるいは政府の外交官としての職務を通じて、世界の裏舞台で繰り広げられるリアルな駆け引きを肌で感じてきた者も多い。あえて映画化された小説に限って言えば、ヒッチコックの『三十九階段』(映画邦題は『三十九夜』)でおなじみのジョン・バカンや『007』シリーズのイアン・フレミング、また『第三の男』などで知られるグレアム・グリーンなどはこの代表格だ。
その正統なる後継者と言えるのが、30年代生まれのスパイ小説家、ジョン・ル・カレ。最初の作品を発表した頃はまだ組織内で働いている最中だったらしく、彼の作家活動は関連各所も把握しており、ル・カレ自身が原稿をチェックしてもらって「問題なし」とのお許しを経た上で出版したというから、作者もお役所もどちらもかなり律儀な関係性だったことが伺える。