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実際のスパイ事件が『裏切りのサーカス』に与えた影響とは?

実際のスパイ事件が『裏切りのサーカス』に与えた影響とは?

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当時の社会の空気を一変させた二重スパイ事件



 もう一つ、この映画を読み解くにあたり、50年代から60年代にかけて相次いで発覚したスパイ事件の影響についても触れねばなるまい。中心人物は、キム・フィルビー、ガイ・バージェス、ドナルド・マクリーン、アンソニー・ブラント、ジョン・ケアンクロスの5人。いずれも30年代に名門ケンブリッジ大学で学んだ者たちで、ひとまとめにして「ケンブリッジ・ファイブ」とも呼ばれる。


 彼らは世界恐慌を機に一気に干上がっていく自国の経済を目の当たりにし、これまでもてはやされてきた資本主義への絶望、政府への失望、さらには自らが生まれ育った上流階級への嫌悪を募らせていった者たちでもある。それに不気味な台頭を示しつつあったファシズムへ対抗する意味でも、共産主義こそが唯一の処方箋だと考えた。そんな彼らをソ連側は逃さず、在学中から巧みにリクルート。そうやって息のかかったエリートたちが、卒業後、戦前から戦後までの数十年にわたり政府の中枢にてスパイ活動を行っていたのである。




 だが、完璧な嘘など存在しない。多くはどこかで綻びが生じてしまうもの。50年代にはバージェス&マクリーンが自分たちへの容疑と追跡を交わすようにしてソ連へ亡命。現地で記者会見を行い自分たちの正当性を主張したことも衝撃を生んだ。また彼らを共産主義へと誘ったリーダー格のフィルビーに至っては、諜報部の中でもかなりハイレベルな情報を取り扱えるキーパーソンだったとされる。そんな彼もまた、西側へ寝返った高官によってその正体を暴露され、60年代になってソ連へと亡命。現地では様々な局面においてインタビューに応じたり、コメントを寄せたり、また自伝を執筆するなどして精力的に活動したと言われる。


 実は、英国では様々なドラマや映画の中にこの“時代の棘”ともいうべき要素が組み込まれることがある。例えば80年代を代表する金字塔『アナザー・カントリー』(84)はガイ・バージェスをモデルにした戯曲を映画化したもので、彼が徐々に共産主義へと傾倒していく様が描かれる。また映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(14)ではナチスの暗号解読を行う極秘施設ブレッチリー・パークに、ケンブリッジ・ファイブの一人、ジョン・ケアンクロスが顔を出す。さらに同作の50年代を舞台にしたパートでは、バージェス&マクリーンが亡命して間もない頃という時代背景もあり、「社会のどこにスパイが潜んでいるかも」というパラノイアがもう一つの悲劇を生むことになる。




 そして、肝心の『裏切りのサーカス』。クライマックスで明らかとなる二重スパイ(原作では“ジェラルド”という暗号名で呼ばれる)に関しては、ジョン・ル・カレが「ケンブリッジ・ファイブ」のリーダー格、キム・フィルビーを意識して執筆した部分も多かったようだ。それゆえ、映画でこの役を演じた俳優(ネタバレになるので誰かは書かないが)も、「役作りではキム・フィルビーについて調べ、大いに参考にした」と語っているほどなのである。



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