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実際のスパイ事件が『裏切りのサーカス』に与えた影響とは?

実際のスパイ事件が『裏切りのサーカス』に与えた影響とは?

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裏切り者に対して注がれる、ル・カレ独特のまなざし



 さて、私が興味深く思えるのは、各種インタビュー(DVDの特典映像などでも)においてル・カレが「スマイリーというキャラクターには、かつての私自身を投影した」と語っていることだ。もちろん、スマイリーとル・カレとでは組織内の立場に大きな差があるものの、少なくとも同じ職種で働く者として、彼らにしか理解できない孤独感、プライド、職業倫理、物の捉え方、考え方などがあったはず。ここに一つの“写し鏡”が見て取れる。


 さらにもう一つ、「ジョン・ル・カレ伝 上・」(アダム・シズマン著/早川書房)では、国家全体に大きな衝撃を与えたキム・フィルビーの裏切り行為について、ル・カレ自身がどう受け止め、推察していたのかを様々な形で論じている。とりわけ私の心に突き刺さった一部を抜粋してみよう。


 「デイヴィッド(ル・カレの本名)はフィルビーを“秘密の共有者”とみなし、自分がフィルビーのようになる可能性も十分にあったと考えた。フィルビーに直接会ったことはなかったが、動機は理解できた。みずからに重ね合わせることができたからだ。デイヴィッドと同じく、フィルビーにも怪物のような父親がいた。デイヴィッドと同じく、フィルビーも組織の中で疎外感を抱いていた」


 私にはこの箇所に、どこか『裏切りのサーカス』と相通じる、怒りにも悲しみにも哀れみにも分類不能な、複雑なテイストが香っているように感じられた。




 そして物語のクライマックス、裏切り者とスマイリーが対峙する場面はつまり、現実世界では一度も相対することのなかったというフィルビーとル・カレの擬似的な対面の場だったのかもしれないな、とふと思った。


 それは“もう一枚の写し鏡“。ずっと追いかけ、追い詰めた相手の中に俄かに自分の一面を垣間見る視点が、この映画を、単なる平面的なスパイ探しにとどまらない、もっと奥深い人間ドラマへと高めているように思える。本作が誕生から今日に至るまで、多くのファンに時代を超えて愛され続ける理由の一つは、そこにもあるのかもしれない。




文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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DVD 1,200円 (税抜) ブルーレイ 1,800円(税抜)

発売元:ギャガ 販売元:ハピネット

(C) 2011 Karla Films Ltd - Paradis Films sarl - Kinowelt Filmproduktion GmbH. All rights reserved. Photos: Jack ENGLISH (C)2010 STUDIOCANAL SA. All rights reserved.

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