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『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』新たなるアニメの手法“クリプトキノグラフィー”を使って監督が描きたかったものとは

© Les Films Sauvages – 2016

『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』新たなるアニメの手法“クリプトキノグラフィー”を使って監督が描きたかったものとは

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『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』あらすじ

林檎――水車小屋

水車小屋に暮らす父・母・娘の三人家族。水も枯れ果て、日々の食料にも困っている。ある日、父親の元に悪魔が現れる。「水車の裏にあるもの」と引き換えに、黄金を与えようというのだ。林檎の木だと思い込んだ父親は取引に応じ、枯れていた川に黄金が流れ込む。生活が変わる。しかし悪魔が求めたのはその林檎の木に登っていたもの――彼の一人娘だった。富を失いたくない父親は、悪魔に追い詰められる。母親は野犬に食われて死んだ。娘は窮地の父親を救うため、自分の両腕を切り落とさせる。父親との関係性にもウンザリした娘は家を出る。父親は絶望し命を断つ。


梨――王宮

腕を失った少女は雨のなか森を行く。生きるために梨を食べようとするが、足を滑らし、川に落ちる。そこで彼女を待つのは川の精だった。川の精は語る――梨は王子のものであること、少女がそれを求めることは運命なのだという。王宮に足を踏み入れる少女を、王子は受け入れ、后とする。結婚式で少女は金色の義手を得る。充分な食料と愛。何一つ不自由ない生活。子供も授かった。だが、戦争が始まった。王子は戦いに出る。そして悪魔が暗躍する。出産の知らせの手紙を書き換え、化物の赤子が生まれたと王様に信じさせる。さらには、庭師を騙し、母親もろとも殺すよう仕向ける。少女は生まれたばかりの赤子を抱え、王宮から逃げ出す。庭師から密かに渡された、新世界からの魔法の種を懐に入れて。


甘橙と無花果――どこか遠くの場所

赤子を抱え様々な地を転々とする少女は、川の精に導かれながら、安住の地を見つけだす。実用性に欠いた黄金の義手は捨て去り、自らの腕で血を流しながらその地を耕し、種を植え、自給自足の生活をする。一方戦争に敗れた王子が城へと戻ってくる。悪魔の策略に気づき、妻と息子を探すため再び旅に出る。

数年が経った。少女は母となり、息子は元気に育った。旅を続ける王子はいつしか妻の生家に辿り着く。そこにあるのは自ら命を断った父親らしき男の姿、黄金の川のほとりに流れ着いた義手、そして、白骨化した両腕。その骨のひとかけらを王子はそっと飲み込む。悪魔はまだ諦めない。ついに王子が愛する妻と息子と再会するなか、いまや母親となった少女の魂をめぐる、最後の戦いが始まる。その果てに、少女とその家族が最後に向かう場所は、はたして?


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長編を一人で描き上げた新手法“クリプトキノグラフィー”



 『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』は、44歳のアニメ作家セバスチャン・ローデンバックがたったひとりで描き上げた長編アニメだ。原作はグリム童話の一篇「手なし娘」。悪魔の計略によって父親に両手を切り落とされた少女の波乱の半生を描いた、グリム童話が本来持っているダークなテイストが色濃いおとぎ話である。


 アニメ制作の常識を知る人であれば「たったひとりで長編アニメ」なんて到底ムリだと思うだろう。しかしローデンバックは長編一本分の作画を、本当にたった一人で、しかもたった一年間で終えたという。



セバスチャン・ローデンバック


 そんな奇跡のスピードを実現したのが、ローデンバックが編み出した“クリプトキノグラフィー”という手法。「クリプトグラフィー」とは暗号を意味する言葉だが、“クリプトキノグラフィー”も、一枚一枚の絵は極端に簡略化されていて、時には何が描かれているのかわからない。ところが、簡単な“なぐり描き”のような絵を並べて動画にすると、人や動物が生き生きと動き出すのだ。


『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』予告


 予告編を観てもらえれば一目瞭然なのだが、ディズニーや日本のテレビアニメを見慣れていると、最初はあまりの省エネっぷりに驚くだろう。ササっと筆で描いたデッサンのような絵柄で、主人公の“娘”を描く線はつながっておらず、肌や服の色が塗り分けられてもいない。しかしすぐに違和感は消える。なぜなら、ローデンバック監督が伝えたい情報や動きはすべて伝わってくるし、観客は、足りてないように思える部分を想像力で補うからだ。画面中の色数が少なくとも、われわれは、リンゴの木の緑や赤を、“娘”のなまめかしいまでの肉体の質感を、まざまざと思い描きながら観ることができるのだ。



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