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『シカゴ』突然歌い出しても変じゃない!オスカー受賞の傑作ミュージカル

(c) Photofest / Getty Images

『シカゴ』突然歌い出しても変じゃない!オスカー受賞の傑作ミュージカル

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現実逃避の妄想をミュージカルとして表現



 『シカゴ』の監督を務めたロブ・マーシャルは、ダンサーとしてキャリアを開始し、ブロードウェイの名振付師として活躍した人物。言うなればバリバリのミュージカル舞台畑の人材だ。これまた舞台演出家から映画監督に転身したサム・メンデスが演出した1998年の『キャバレー』のブロードウェイリバイバル公演で振付を担当して高い評価を得た。その後99年にミュージカル『アニー』のテレビドラマ版の監督を務め、その手腕を買われて『シカゴ』の映画化を任された経緯がある。


 そもそも『シカゴ』はブロードウェイの伝説的振付師兼演出家のボブ・フォッシーが1975年に初演したミュージカル舞台。一時は忘れられた作品になっていたが、1996年にリニューアルされたバージョンが再演されて人気が再燃し、ブロードウェイでは20年を超えた今もロングランを続けている。



『シカゴ』(c) Photofest / Getty Images 


 ロブ・マーシャルが映画化に際して選んだのは、鬼才監督ラース・フォン・トリアーの異色ミュージカル『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)とほぼ同じアプローチ。すなわち、劇中のミュージカルシーンをすべて、主人公であるロキシーの妄想として処理したのだ。多くのミュージカル映画と同様に普通のセリフから歌に切り替わったりもするが、ミュージカルシーンはすべて現実逃避の傾向が強いロキシーが現実を捻じ曲げて見ている様を現わしているのだ。


 『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の主人公セルマの場合、ミュージカルシーンに突入するきっかけは音やリズムだったりするのだが、『シカゴ』のロキシーの場合は、自分がスターになった瞬間を夢想していることが多い。スターになって一流のクラブのステージで歌い踊る自分自身の姿を思い描いては、辛い現実や目を逸らしたいことをごまかしているのである。


『シカゴ』のみごとさは、ミュージカルシーンの理由付けがしっかりしているだけではない。観客に「突然歌い出すなんておかしい」と思う隙すら与えない、流れるような編集も冴えわたっている。もともとが振付師であるロブ・マーシャルは、役者を振り付けるだけでなく、映像もみごとに振り付けているのだ。


 ただ、ミュージカルシーンの説得力を重視したことで、オリジナルの舞台にあっても映画のコンセプトに合わない楽曲は切り捨てられることになった。特にロキシーの夢想が介入できない場面、ロキシーがその場に居合わせてなかったり、客観的にロキシーを語るような曲は映画では使えない。ヴェルマと女看守のママ・モートン(クィーン・ラティファ)が世の中の品性の劣化を嘆く名曲「Class」も、ロキシーが絡むことができないという理由から、撮影されたにも拘わらず完成した映画からは削除されている(「Me and My Baby」のようにストーリーをタイトに進めるために外された楽曲もある)。



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