1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ロスト・イン・トランスレーション
  4. 『ロスト・イン・トランスレーション』名匠たちに愛される「トーキョー / ニッポン」の魅力
『ロスト・イン・トランスレーション』名匠たちに愛される「トーキョー / ニッポン」の魅力

『ロスト・イン・トランスレーション』名匠たちに愛される「トーキョー / ニッポン」の魅力


外国映画に登場する日本語の歌



 ところで、『ロスト・イン・トランスレーション』には様々な音楽が流れる。これはソフィア・コッポラの監督作では欠かせないもので、長編デビュー作の『ヴァージン・スーサイズ』(99年)では70年代のスタンダードナンバーが効果的に使用されていたが、本作でも空気感を重視した楽曲がえらばれている。その中には日本の曲も含まれている。これは本作の音楽プロデューサー、ブライアン・レイツェルがツアーをしている最中にコーネリアスと一緒になることがあり、小山田圭吾にこの映画のサントラに合うような日本の曲はないかと訊ねたことに端を発する。小山田がいくつかの音源を渡し、その中からブライアンがセレクトしたものをソフィアが聴き、2人が選んだのが、はっぴいえんどの『風をあつめて』だった。劇中ではカラオケボックスで背景にカラオケとして流れる程度だが、エンドロールでは原曲が流れる。カラオケシーンの撮影時には最後に『風をあつめて』を全員で合唱したという。


 日本を舞台にした外国映画で日本語の歌が流れても驚かないが、舞台が全く異なる外国映画から不意に流れてくると、耳が反応することがある。『チャーリーズ・エンジェル』(00年)でピチカート・ファイヴの『トゥイギー・トゥイギー』が使用されているが、海外で人気のアーティストの場合も、さして驚きはない。これがクエンティン・タランティーノ監督『キル・ビルVOL.1』(03年)になると、クライマックスで梶芽衣子が唄う『修羅の花』が流れ始めると、流石に劇場にどよめきが起きた。奇をてらって使ったわけではなく、元ネタにした『修羅雪姫』(73年)の主題歌だけに意外に正統的なオマージュであり、奇妙な和洋折衷を成立させていた。


 ラジカセ番長・タランティーノの昭和歌謡への造詣の深さを脅かす新鋭が、『嗤う分身』(13年)の監督リチャード・アイオアディ。ドストエフスキーの『分身(二重人格)』を原作にした同作は、セットとナイトシーンだけでディストピアを表現する意欲作。だが、何と言っても1977年生まれの監督が『エド・サリヴァン・ショー』の再放送で親しんだという日本の曲を印象的に配置しているのが凄い。坂本九の『上を向いて歩こう』は定番だが、ジャッキー吉川とブルー・コメッツの『草原の輝き』『ブルー・シャトウ』が薄暗いディストピア的な世界に奇妙なほど似合い、GSサウンドとの相性の良さに驚かされる。


 洋画の主題歌が、日本公開版のみ日本のアーティストやアイドルに差し替えられてイメージが合わないと不満の声が挙がることが多いが、意図的に日本の曲を使用した『ロスト・イン・トランスレーション』『キル・ビル』『嗤う分身』の洗練されたセンスを目にすれば、そうした行為がいかに野蛮で映画を傷つけているか実感することになる。




文: モルモット吉田

1978年生。映画評論家。別名義に吉田伊知郎。『映画秘宝』『キネマ旬報』『映画芸術』『シナリオ』等に執筆。著書に『映画評論・入門!』(洋泉社)、共著に『映画監督、北野武。』(フィルムアート社)ほか



今すぐ観る



作品情報を見る





「ロスト・イン・トランスレーション」

DVD発売中 価格:3,800円+税

発売元・販売元:㈱東北新社

(c)2003 LOST IN TRANSLATION INC.

PAGES

この記事をシェア

公式SNSをフォロー

関連する商品

  • ミッシェル・ゴンドリー、レオス・カラックス、ポン・ジュノらの名匠がそれぞれの視点で東京を切り取る『TOKYO!』
  • 東京の空気感をチョイス。ソフィア・コッポラの洗練されたセンス『ロスト・イン・トランスレーション オリジナル・サウンドトラック』
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ロスト・イン・トランスレーション
  4. 『ロスト・イン・トランスレーション』名匠たちに愛される「トーキョー / ニッポン」の魅力