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『ロスト・イン・トランスレーション』名匠たちに愛される「トーキョー / ニッポン」の魅力

『ロスト・イン・トランスレーション』名匠たちに愛される「トーキョー / ニッポン」の魅力

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東京は映画の舞台にふさわしい街?


 『ロスト・イン・トランスレーション』は日本で全編撮影されたが、外国映画の日本ロケは珍しい話ではない。東京に限っても、戦後間もない1948年にはハンフリー・ボガート主演の『東京ジョー』(48年)が早くも東京でロケされている。もっとも、ボガートは来日したわけではなく、代役が日本で後ろ姿を撮影したのみ。それ以外のシーンは風景を大量に撮影してハリウッドに持ち帰り、スクリーンプロセスを使うことで、あたかも日本にボガートが降り立ったかのように見せている。

 『ワイルドスピードX3  TOKYO DRIFT』(06年)でも、渋谷の雑踏シーンはゲリラ撮影されたものの、流石に渋谷のスクランブル交差点でドリフトなんぞ出来ないので、カーチェイスシーンは全てアメリカで撮影したうえで日本の背景を合成しており、『東京ジョー』の頃とさほど変わらない。そのため、標識などのディテールで妙な部分が出てきたりする。

 その点、日本映画は――というと、東京が舞台でもロケに融通が効く地方都市で撮影することが多い。例えば、『新宿スワン』(15年)はタイトルからして新宿が舞台だけに、実際に歌舞伎町近辺で撮影されているが、歩くシーンぐらいは可能でも、乱闘シーンなど撮影に手間がかかる場面になると、そうはいかない。そこで撮影に協力的な地域かつ、歌舞伎町に似た場所を探すことになる。結果、選ばれたのは静岡県浜松市。一見、歌舞伎町とは似ても似つかないように思えるが、繁華街の道幅や飲食店の並ぶ通りの雰囲気が似ており、背景に新宿の高層建築やネオンを合成すると、映画を観れば分かるとおり、浜松の町並みを知らなければ、まず気づかない。

 浜松以外にも、都市の景観、工場地帯、港、地下鉄が近くに揃う神戸もロケに使用されることが多い。あるいは、地方に大がかりなセットで東京の一区画を作ってしまうこともある。『容疑者 室井慎次』(05年)では、新宿の繁華街を捜査員たちが追う中、大型トラックに被疑者が轢断されるシーンを撮影するにあたって、福島県いわき市に、伊勢丹からアルタ前までの200メートルをセットで再現。『ドラゴンヘッド』(03年)では、全編をウズベキスタンで撮影し、渋谷駅を全長150メートルにわたってセットで再現している。アメリカ映画の日本ロケに限らず、日本映画でも規模が大きくなればなるほど、東京を舞台にした作品を撮るには、東京から離れなければならない。

トーキョーで撮ることを選んだ監督たち


 それでも、あえて東京で撮影することを選ぶ外国人監督たちもいる。『TOKYO!』(08年)では、ミッシェル・ゴンドリー、レオス・カラックス、ポン・ジュノというアメリカ、フランス、韓国で映画を撮ってきた監督たちがそれぞれの視点で東京を切り取ると、まるで違った街に見えてしまう。彼らは東京で映画を撮ることの不自由さをまるで感じさせず、それぞれが捉えた東京=TOKYOを映し出す。ミッシェル・ゴンドリーは撮影中、「僕が撮りたいのは『ロスト・イン・トランスレーション』じゃないんだ。日本人のスタッフやキャストと一緒に作る日本の映画なんだ!」と言ったという。

 『LOVE 3D』(15年)をはじめ、新作を撮るたびに過激な表現が話題を呼ぶギャスパー・ノエ監督の『エンター・ザ・ボイド』(09年)では、歌舞伎町の雑居ビルに映画の舞台に相応しいアパートを見つけ、ドラック、臨死体験を交えてバッド・トリップするに相応しい極彩色の街として歌舞伎町を映している。

 どうやら、東京を最も刺激的に撮るのは日本映画でもハリウッド大作でもなく、小規模の外国映画なのかも知れない。しかし、監督のセンスだけで東京が魅力的に映るわけではない。『ロスト・イン・トランスレーション』の撮影監督はランス・アコード。CM、ミュージックビデオの撮影を経て、『バッファロー'66』(98年)で長編映画の撮影監督デビュー。以降も『マルコヴィッチの穴』(99年)、『かいじゅうたちのいるところ』(09年)など従来の映画技法に囚われない作品を多く手がけている。本作でも、刻々と変化する状況をドキュメンタリー的に切り取る柔軟さを持つ一方で、フォトグラファー時代のソフィアが撮っていたスナップ写真的な空気感も受け継いでいる。シャーロット(スカーレット・ヨハンソン)が渋谷のスクランブル交差点でビニール傘を差して渡るシーンなど、周到に計算されて撮られたかと思うほど印象深いが、実は別のシーンの準備をしていると雨が降ってきたので急遽、ゲリラ撮影で撮られたものだという。時には乱暴に思えるような無造作に撮られたショットも混在しているが、それが作品の雰囲気と絶妙にマッチしている。ランスの撮影は東京の空気感、湿気も感じさせてくれる。

外国映画に登場する日本語の歌


 ところで、『ロスト・イン・トランスレーション』には様々な音楽が流れる。これはソフィア・コッポラの監督作では欠かせないもので、長編デビュー作の『ヴァージン・スーサイズ』(99年)では70年代のスタンダードナンバーが効果的に使用されていたが、本作でも空気感を重視した楽曲がえらばれている。その中には日本の曲も含まれている。これは本作の音楽プロデューサー、ブライアン・レイツェルがツアーをしている最中にコーネリアスと一緒になることがあり、小山田圭吾にこの映画のサントラに合うような日本の曲はないかと訊ねたことに端を発する。小山田がいくつかの音源を渡し、その中からブライアンがセレクトしたものをソフィアが聴き、2人が選んだのが、はっぴいえんどの『風をあつめて』だった。劇中ではカラオケボックスで背景にカラオケとして流れる程度だが、エンドロールでは原曲が流れる。カラオケシーンの撮影時には最後に『風をあつめて』を全員で合唱したという。

 日本を舞台にした外国映画で日本語の歌が流れても驚かないが、舞台が全く異なる外国映画から不意に流れてくると、耳が反応することがある。『チャーリーズ・エンジェル』(00年)でピチカート・ファイヴの『トゥイギー・トゥイギー』が使用されているが、海外で人気のアーティストの場合も、さして驚きはない。これがクエンティン・タランティーノ監督『キル・ビルVOL.1』(03年)になると、クライマックスで梶芽衣子が唄う『修羅の花』が流れ始めると、流石に劇場にどよめきが起きた。奇をてらって使ったわけではなく、元ネタにした『修羅雪姫』(73年)の主題歌だけに意外に正統的なオマージュであり、奇妙な和洋折衷を成立させていた。

 ラジカセ番長・タランティーノの昭和歌謡への造詣の深さを脅かす新鋭が、『嗤う分身』(13年)の監督リチャード・アイオアディ。ドストエフスキーの『分身(二重人格)』を原作にした同作は、セットとナイトシーンだけでディストピアを表現する意欲作。だが、何と言っても1977年生まれの監督が『エド・サリヴァン・ショー』の再放送で親しんだという日本の曲を印象的に配置しているのが凄い。坂本九の『上を向いて歩こう』は定番だが、ジャッキー吉川とブルー・コメッツの『草原の輝き』『ブルー・シャトウ』が薄暗いディストピア的な世界に奇妙なほど似合い、GSサウンドとの相性の良さに驚かされる。

 洋画の主題歌が、日本公開版のみ日本のアーティストやアイドルに差し替えられてイメージが合わないと不満の声が挙がることが多いが、意図的に日本の曲を使用した『ロスト・イン・トランスレーション』『キル・ビル』『嗤う分身』の洗練されたセンスを目にすれば、そうした行為がいかに野蛮で映画を傷つけているか実感することになる。



「ロスト・イン・トランスレーション」

DVD発売中 価格:3,800円+税

発売元・販売元:㈱東北新社

© 2003 LOST IN TRANSLATION INC.


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