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『ミッション:インポッシブル』と刺激しあって切り開く、スパイ映画の新時代『007 スカイフォール』

『ミッション:インポッシブル』と刺激しあって切り開く、スパイ映画の新時代『007 スカイフォール』


『スカイフォール』と『ローグ・ネイション』で登場する「詩」



 思えば、『007 スカイフォール』と『ローグ・ネイション』は、共に「データファイル」をめぐる攻防戦という点でも共通していた。だが多くの映画ファンの心を捉えたのは、むしろそこからさらに連鎖的に掘り起こされていく「スパイの精神性」の部分だったのではないだろうか。


 元来、我々が映画やドラマで見るスーパーエージェントは自らの感情を封じ、鉄の意志でミッションに身を捧げる者たちばかり。しかし、両作はその暗黙の了解を逆手にとって、主人公の遵守すべき精神性や宿命を実に分かりやすく浮かび上がらせる構造を有していた。どちらも、英ヴィクトリア朝時代の作家が残した「詩」を用いる形によって。


 例えば『スカイフォール』では、現代における「英雄」について、M(ジュディ・デンチ)が桂冠詩人アルフレッド・テニスンの「ユリシーズ」という詩の一節を印象的に語る。


 「その昔、地をも天をも動かした剛の者では今はないとしても/今日のわれらは斯くの如し、である。/英雄的な心が持つ共通の気質は/寄る年波と宿縁で弱くなったとはいえ/その意志力は強く/努力し、求め、探し、そして屈服することはないのだ。」


「対訳テニスン詩集」西前美巳編/岩波書店/2003



SKYFALL(C)2013 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc.


 このような硬派な文脈を真正面に据えることなど従来の「007」ではなかった。まさに『スカイフォール』の本気度が伝わってくる場面である。その刹那、映し出されるのは、ロンドンの官庁街をひた走るボンドの姿。年齢と共に能力は衰えたとしても、意志の力だけは決して失われていない。この詩は孤高のスパイの心の叫びや生き様を投影するのみならず、「007」シリーズが50年にわたって築き上げてきた精神性をも的確に集約させたものだった。


 一方、これに対して、『ローグ・ネイション』では、思いがけぬタイミングで(しかも半ば意識を失った英国首相の口から)ラドヤード・キップリングの「IF-」という詩の冒頭部分が語られる。


 「たとえ誰もが冷静さを失っても、あなたが変わらず冷静さを保つことができるなら/たとえあらゆる人々から疑いの目を向けられようとも、あなたが自分を信じ抜くことができるなら」


 その内容は主人公の置かれた孤軍奮闘の状況ともピタリと重なり、さらにこれまた『M:I』シリーズ全体にも通底する一節としても受け取れる。


 両作がどちらもこうして詩を用いたのは全くの偶然だろうか。それとも何らかの対抗心や遊び心から生じたものなのか。その真意はわからないが、少なくともファンにとっては、両者がお互いを意識しながら時代と真向かっているようにも思える、極めて刺激的な比較材料と言えるだろう。



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