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ルカ・グァダニーノが生まれ変わらせた『サスペリア』の新解釈とは ※注!ネタバレ含みます。
スージー・バニヨンとは何者なのか
このように閉塞した組織であるマルコス・ダンス・カンパニーは、存続し続けるためとはいえ、一種の搾取構造を作り出し、他のマイノリティを犠牲にするような行動をとる。つまりここでは、後に姿を見せるマルコスの怪異な容貌が象徴するように、自分たちが迫害されていたはずの、搾取する権力者へと醜く堕落してしまっているのである。彼女たちが本来の存在価値を取り戻すためには、カンパニーは生まれ変わらなければならなかった。その内部的革命を、マダム・ブランはついに果たすことができなかったのだ。そして唯一、それができるのが、スージー・バニヨンだったのである。
魔女たちの悲願は、舞踊を利用したサバト(悪魔崇拝の儀式)によって悪魔を現世に呼び出し、その超常的な力で自分たちの内なる欲望を叶えることだった。マルコスは、スージーの若い肉体を、自分の精神の「器」として奪おうとする。その過程に必要だったのが、魔女「マザー・サスペリオルム」を名乗るマルコス自身を唯一の「母」だと、スージーに仰がせることだった。しかし、ここでまた予想外の事件が起きる。スージーは自分こそが「マザー・サスペリオルム」だと宣言し、自らの呪術的な力によって悪魔を召還。マルコス・ダンス・カンパニーの絶対者として、堕落した魔女たちを次々と殺害していく。
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それにしても、なぜスージーこそが真の魔女になり得たのか。それはまず、アメリカに住んでいた彼女の家庭が、キリスト教の一派である「メノナイト」だったことが関係していると考えられる。この、ドイツにルーツを持ち16世紀より分派された、より急進的な考えを持つ宗教は、キリスト教主流派から弾圧を受け、あらゆる迫害に遭った歴史を持っている。教義こそ全く違うが、異端として差別されたマイノリティとしての共通点が、この両者に存在しているという見方ができるのだ。これが魔女の苦しみと孤独を背負った舞踊にスージーが強く惹きつけられた理由となっている。
だがそれだけではない。スージーはマルコスの言葉に従い、アメリカに住む実の母親を捨てるという行為を受け入れた。しかしそのままマルコスを母と仰ぎ、彼女の器になるという選択をとることもなかった。その瞬間、スージーはあらゆるコミュニティーや血のつながりから切り離され、マイノリティのなかでさらなる異端としての役割を受け入れたことになる。だからこそ彼女は真の魔女として、新たな搾取構造を生み出した集団を革命する「資格」を得たと考えられるのだ。その姿は意外にも神聖な聖母の姿にも似ていた。