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『イン・ディス・ワールド』シンクロする視点が突きつけてくる現実

(c) Photofest / Getty Images

『イン・ディス・ワールド』シンクロする視点が突きつけてくる現実

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イタリアから現れた、もう一本の“不法移民と少年”映画



 2000年、ロンドンに密入国しようとした中国系人58名がトラックのコンテナで酸欠状態に陥り死亡している状態で発見された。ウィンターボトムはそのニュースに衝撃を受け、映画『イン・ディス・ワールド』の着想を得たという。世論では移民への風当たりが強まる中、それほどまでの危険を冒してまで別の国を目指す人たちにスポットを当てようと考えたのだ。


 『イン・ディス・ワールド』から遅れること3年。上映時間6時間超えの超大作『輝ける青春』で話題を呼んだイタリアの名監督マルコ・トゥリオ・ジョルダーナも、不法移民の子供たちを描いた映画を発表した。『13歳の夏に僕は生まれた』(2005)だ。


 こちらは『イン・ディス・ワールド』のようなドキュメンタリータッチではなく従来の劇映画のスタイルだが、共通しているのは、一貫して当事者である少年の視点で貫かれていること。ただし主人公は難民ではない。難民の兄妹と知り合うことになる、裕福な家の子供なのである。


 13歳のサンドロは、父親とのクルージング中に地中海に転落してしまう。サンドロの命を救ったのは、不法移民を載せた密航船にいたルーマニア人の少年ラドゥだった。何日も洋上をさまよう船の中でラドゥと妹のアリーナと友だちになったサンドロは、難民収容所から2人を助けようと両親に里親になって欲しいと頼み込む。しかしラドゥはサンドロたちの信頼を裏切り、金目の物を盗んでアリーナとともに姿を消してしまう……。


 この映画におけるサンドロ少年の視点は、実は『イン・ディス・ワールド』を観ているわれわれ観客の視点でもある。サンドロは、経済的にも身体的にも不安を感じることのない世界で安穏と暮らしていたが、難民船に拾われたことで、彼らが苛酷で劣悪な旅を耐え忍んで目的地を目指しているの様を目撃する。いや、サンドロは身をもって同じ状況を体験する。難民問題は簡単に解決できるトピックではないが、「彼らと同じ目線に立つことを知った今、あなたはどう思いますか?」という問いを『イン・ディス・ワールド』の観客も『13歳の夏に僕は生まれた』のサンドロも突きつけられるのだ。



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