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『イン・ディス・ワールド』シンクロする視点が突きつけてくる現実

(c) Photofest / Getty Images

『イン・ディス・ワールド』シンクロする視点が突きつけてくる現実

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    難民キャンプしか知らずに生きてきた少年の物語



     マイケル・ウィンターボトム監督作『イン・ディス・ワールド』(2002)の主人公ジャマールは15歳の少年で、パキスタンのシャムシャトー難民キャンプから、よりよい生活を求めて6,400キロ離れたロンドンへと旅をする。


     孤児であるジャマールは、片言の英語ができるという理由で、従兄弟の青年エナヤトゥーラのロンドン行きに同行することになる。しかし飛行機に乗ってあっという間、というわけにはいかない。親戚がカネを払った密入国業者に仲介されて、はるばる陸路と海路を往くのである。もちろん危険と背中合わせなのは承知の上だ。


     シャムシャトー難民キャンプは、ペシャワール地方のアフガニスタンとの国境近くに広がる数万人規模の巨大キャンプだ。劇中で主人公を演じたジャマール少年(役名もジャマール)は、この難民キャンプで生まれ育ち、ウィンターボトム監督に見出されて映画に出演。撮影終了後、実際にロンドンに亡命を図り、未成年ということで18歳までの滞在が許されたが、その後のことはよくわからない。


     ジャマールのようなアフガニスタン難民は1979年のソ連軍によるアフガン侵攻から急速に増えて、9.11テロ後の多国籍軍の侵攻によってピーク時には740万人に達した。ジャマールはソ連侵攻の後、アフガニスタンが内戦状態に陥った混沌期に生まれた子供だった。


     ジャマールにとって祖国アフガニスタンは見知らぬ国で、難民キャンプだけが生きている世界だった。劇中のジャマールは巧みに英語を使い、たくましく暮らしていたようにも見えるが、そこに未来が見いだせないからこそ、現実のジャマールもロンドンに亡命しようと決意したのだろう。


     逆に、映画に参加した時点ですでに大人だったエナヤトゥーラは、特に西側への憧れや執着は見せなかったようだ。劇中でエナヤトゥーラは命を落とすが、現実のエナヤトゥーラはパキスタンに戻り、出演料を元手におもちゃ屋を開業しようとするも早々に失敗。トラックを購入して運送業を始めたという。ジャマール同様、映画公開から15年が経った今どうしているのかはわからない。



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