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『イン・ディス・ワールド』現実を侵食するフィクション。もはやリアルを超えたドキュメンタリーテイスト

(c) Photofest / Getty Images

『イン・ディス・ワールド』現実を侵食するフィクション。もはやリアルを超えたドキュメンタリーテイスト

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『イン・ディス・ワールド』あらすじ

パキスタンのペシャワール。15歳の孤児ジャマールは難民キャンプで育ち、低賃金の工場で働いていた。そしてもう一人、家族で経営する家電販売店を手伝うジャマールの従兄弟エナヤット。2人はある日、ロンドンへ旅立つことになる。エナヤットの父親が息子の将来を案じて密入国業者に大金を払い、エナヤットを親戚のいるロンドンに向かわせようとしていたのだった。ジャマールも英語が話せるため同行することに。そして、いよいよ彼らは自分たちの新たな未来と希望を胸に抱き、6400キロ彼方の亡命先へ死と隣り合わせの旅に出る…。


Index


    2000年代初頭にデジタル撮影がもたらした機動力革命



     イギリスの俊英監督マイケル・ウィンターボトムが2002年に発表した『イン・ディス・ワールド』は、パキスタンの難民キャンプの少年ジャマールと従兄弟の青年エナヤトゥーラが、イギリスに(不法に)移民しようとロンドンを目指して6,400キロを旅するロードムービーだ。ベルリン国際映画祭では最高賞の金熊賞に輝いたが、おそらく金熊賞史上一番小さな規模で撮影された映画だったろう。ウィンターボトムは実際に難民キャンプに赴いて主演の2人を見つけ出し、劇中で描かれているルートをたどりながら小型のデジタルビデオで撮影したのだ。2人が旅先で出会う役を演じるキャストは現地で調達し、クルーは監督を含めて5、6名だったと聞く。


     まるでバラエティ番組の突撃ロケである。最近では『タンジェリン』(2015)のようにiPhoneだけで撮影された映画も公開されているが、当時はウィンターボトムのような名のある監督のゲリラ的アプローチは驚きを持って迎えられた。絵のクオリティより臨場感を優先し、状況によっては何が起きているのかも判別できないが、それでも難民たちの苛酷な旅のリアルをみごとに捉えていた。


     奇しくも同年、スティーブン・ソダーバーグは全編デジカメ撮影と即興演技という実験作『フル・フロンタル』を発表している。彼らのようなフットワークの軽い監督が、デジタル撮影という新技術がもたらす機動性の高さに可能性を見出したのは必然だったろう。ウィンターボトムは『イン・ディス・ワールド』以降ドキュメンタリー的なアプローチを様々なジャンルに応用し、ソダーバーグは最近iPhoneだけで撮影する映画作りに挑戦したそうである。スタンスにブレがない。



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