2019.03.05
事件勃発から収束までをリアルタイムで描く
一方、事件から7年の歳月を経て制作された『ウトヤ島、7月22日』は、広範囲に及び入念なリサーチが行われた点、誰もが予想しなかった手法にて撮影が敢行された点、さらにそれをまとめ上げた点にも高い評価が集まっている。
結論から言おう。本作は全編が97分ながら、その大部分に及ぶ72分間において驚愕の長回し、ワンカット撮影が貫かれている。実はウトヤ島で最初の銃撃が始まってから犯人が拘束されるまでの時間もそれとほぼ同じ72分間。つまりこの映画は、事件勃発から収束までを切れ目無く、リアルタイムで描こうとしているのだ。
冒頭、若者たちだけのサマーキャンプが混乱に包まれている様子が映し出される。先に起こった爆破テロの一報を受けて、皆が本土の肉親たちと連絡を取り合い、言葉を交わしている。考えうる犯人像やこれからの世情について議論を始める者たちもいる。この不安な気持ちを解消しようと、海へ泳ぎに出かける者、バーベキューで腹ごしらえする者、事の成り行きも知らずテントで寝入っている者さえいる。
『ウトヤ島、7月22日』Copyright (c) 2018 Paradox
そこに異変が勃発。突如、銃声が鳴り響き、多くの若者たちが雪崩を打つように助けを求めて駆け込んでくる。銃声は鳴り続ける。それどころか徐々に音は大きくなり、何者かが近づいてきているのがわかる。そんな中、主人公の少女は仲間とともに身を隠しながら、一緒にキャンプへ参加した妹を探し続けるのだが・・・。
かくも本作は、決してこの事件を俯瞰的に扱ったものではない。主人公と同じく、観客が知りうる情報もごく僅か。犯人の姿がはっきりと映し出されることもほぼなく、若者たちが銃撃にさらされ、そこかしこで命を落としている姿が描かれる。視点を限定しているからこそ、スクリーンから伝わってくる衝撃は計り知れず、筆者も鑑賞中、何度となく息苦しくなり、どうしようもなく足が震えた。
付け加えておくと、本作は映倫によるレイティングが「G(一般向け)」となっており、なるほど残虐な描写そのものはあえて避けられていることが伺える。ただ、それでもなお、これほどの恐怖と絶望が身を貫いてやまないのは、やはり一度回りだしたらもうストップが効かない、長回しの緊張感、緊迫感によるものなのだろう。