2018.08.23
※本記事は、物語の結末に触れていますので、未見の方は映画鑑賞後にお楽しみいただくことをお勧めします。
※2018年8月記事掲載時の情報です。
『トゥモロー・ワールド』あらすじ
人類に最後の子供が誕生してから18年が経過した西暦2027年。原因がわからないまま子孫を生み出すことの出来なくなった人間には滅亡の道しかないのか。希望を失った世界には暴力と無秩序が際限なく拡がっていた。世界各国が混沌とする中、英国政府は国境を封鎖し不法入国者の徹底した取締りで辛うじて治安を維持している。そんなある日、エネルギー省の官僚セオは、彼の元妻ジュリアン率いる反政府組織“FISH”に拉致される。ジュリアンの目的は、ある移民の少女を“ヒューマン・プロジェクト”という組織に引き渡すために必要な“通行証”を手に入れることだった。最初は拒否したものの、結局はジュリアンに協力するセオだったが…。
Index
説明を排除し、徹底した状況描写で物語を紡ぐ
2006年に公開されたこの映画は、観る者の度肝を抜くほどの生々しさと凄みに満ちていた。通常、未来を舞台にしたSF映画となれば、冒頭にその世界観を字幕などで手っ取り早く伝えようとしたり、「これぞ、未来!」という大勝負のビジュアルを映し出して観客の興味関心を効率良く掌握しようとするケースも多い。
だが、その一方で2027年の英国を舞台にした『トゥモロー・ワールド』には、その説明的な部分や「これぞ!」と見得を切るような場面が一切ない。いや、「ない」というよりは、作り手が意識してそれらを排除しているかのようだ。
では代わりに何があるのか。それは一言で、圧倒的な「状況」に尽きる。この世界で人類や地球は一体どのような事態に巻き込まれているのか。それは全くわからないし、見当もつかない。おそらくそこに暮らす住民たちも何ら真相を理解していないのだろう。かといって、登場人物たちが何かを探ろうとネット検索する場面は見当たらないし、携帯電話で互いにやり取りすることもない。唯一、TVのニュースだけが情報を得る手段として現存しているが、これもどれほど信用に足るものなのかわからない。
『トゥモロー・ワールド』A UNIVERSAL PICTURE(c)2006 UNIVERSAL STUDIOS
要はこの映画が描く未来とは、前後はおろか、右も左もわからない混沌なのだ。そんな中、頼りになるのは、生まれながらに併せ持つ生存本能だけ。我々は主人公と感覚を一体化させながら、目で見て、手で触れたものだけを手掛かりにこの「状況」を把握し、109分を必死に生き抜かなければならない。