2018.08.17
『トゥモロー・ワールド』あらすじ
人類に最後の子供が誕生してから18年が経過した西暦2027年。原因がわからないまま子孫を生み出すことの出来なくなった人間には滅亡の道しかないのか。希望を失った世界には暴力と無秩序が際限なく拡がっていた。世界各国が混沌とする中、英国政府は国境を封鎖し不法入国者の徹底した取締りで辛うじて治安を維持している。そんなある日、エネルギー省の官僚セオは、彼の元妻ジュリアン率いる反政府組織“FISH”に拉致される。ジュリアンの目的は、ある移民の少女を“ヒューマン・プロジェクト”という組織に引き渡すために必要な“通行証”を手に入れることだった。最初は拒否したものの、結局はジュリアンに協力するセオだったが…。
Index
- 年月を経るごとに重要性を増すSF映画の金字塔
- まだ姿も形もないシンボリックな高層建築を描きこむ
- 未来であり、過去でもあるロンドン・オリンピックをどう描いたか
- ワンシーンに映り込んだバンクシーのグラフィティ・アート
年月を経るごとに重要性を増すSF映画の金字塔
この映画のことを思うと、いまだ胸が苦しくなる。その切実なストーリー展開はむせかえるほどの生々しさに満ち、やがて訪れるかもしれない暗雲たる未来の”予見”としても本作は十分に説得力を持ち得ていた。
これほど透徹した視線で衝撃を与えた傑作にもかかわらず、公開当時(2006年)は興行的に全く振るわず(それもまた胸の苦しみを強める一因だ)。その年のアカデミー賞では、脚色、編集、撮影部門にノミネーションを果たす程度にとどまった。
だが、今こうして振り返ってみるとどうだろう。『トゥモロー・ワールド』は物語の舞台である2027年へのカウントダウンが進むにつれ、ますます重要性が増しているようだ。その証拠に、BBC(参照:1)が2016年、177人の映画評論家を対象に21世紀の最も優れた映画はどれかを尋ねてランキング化したところ、同作は13/100位につける健闘ぶりを見せつけている。
『トゥモロー・ワールド』A UNIVERSAL PICTURE(c)2006 UNIVERSAL STUDIOS
同作の描く2027年の未来では、人類の生殖能力が失われ、もう18年ばかり新たな生命が誕生していない。すでに世界の多くの国々はテロ、戦争、飢餓、環境汚染などで壊滅的なダメージを受けているらしいが(具体的な言及はなされない)、唯一英国は8年にわたって国境を閉鎖し、かろうじて秩序を保ちながら奮闘中。難民たちは生存をかけてこの地への侵入を試み、拘束された者たちはゲットーのような収容エリアで強制送還を待つ日々を送っている。
映画サイト「Vulture」(参照:2)によると、この映画化の企画がアルフォンソ・キュアロン監督のもとに転がり込んできたのは2001年のこと。いかに可能性を膨らませるべきか考えあぐねていたところ、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロが起こる。ちょうどその時、キュアロンはトロント映画祭で自らの監督作『天国の口、終りの楽園。』(01)を上映すべく現地入りしていたが、テロの混乱によって帰りの便のフライトがキャンセルに。数日間の足止めを食らう中、同伴した俳優のガルシア・ガルシア・ベルナルらと言葉をかわし、これからどのような時代が待ち受けているのか、様々な思考を巡らしたという。そこから自ずと、『トゥモロー・ワールド』を前に進めてみたいというモチベーションに火がつき始めたのだ。
構想期間は思いのほか長期に及んだ。一度は『ハリー・ポッターとアズガバンの囚人』(04)のために離脱したキュアロンだが、ハリー・ポッター撮影時のロンドンでの暮らしは、彼により深く『トゥモロー・ワールド』のことを考える機会を与えた。街を知り、人と話し、写真を撮り、関連書籍も数多く読み漁り、こうやって士気は一気に高まり、知識や情報も十分な状態に。そして2005年、ようやくスタジオ側の首脳陣も首を縦に振り、『トゥモロー・ワールド』の製作に本格的なゴーサインが出されることとなる。