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時を重ね存在意義を増す『トゥモロー・ワールド』式のリアルな未来

A UNIVERSAL PICTURE(c)2006 UNIVERSAL STUDIOS

時を重ね存在意義を増す『トゥモロー・ワールド』式のリアルな未来

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まだ姿も形もないシンボリックな高層建築を描きこむ



 かくも周到に準備されただけあり、『トゥモロー・ワールド』は原作以上にリアルな状況が広がる作品となった。果たして未来はどのように予見されていたのか。現時点でその途中経過を検証してみるだけでも、何やらドキリとさせられる部分は多い。


 例えば近年、大量の難民がヨーロッパへとなだれ込んだ光景は、この映画のワンシーンを彷彿させるのに十分な衝撃をはらんでいた。また、国境警備の強化といえば、今や米トランプ政権の掲げる政策としてもメジャーなものとなっているし、一方、ブレグジットに揺れる英国の姿を、(この映画が描いた)国境を閉じて孤立主義へ突き進む未来へ向けた第一歩のように受け止めた人もいたかもしれない。それに平均年齢だけが残酷なまでに上昇していく未来の状況には、日本を含むアジアの多くの国々が直面する超高齢化の問題とも相通じるものを感じずにいられない。


 その一方、12年経った今だからこそ、改めて鑑賞してみて「ああ、こんな描写が盛り込まれていたのか」と気づかされるディテールも数多い。それらの中から代表的なものをいくつか紹介してみたい。


 まず注目したいのは、冒頭のシークエンス。カフェでコーヒーをテイクアウトした主人公セオ(クライヴ・オーウェン)が路上で立ち止まり、内ポケットにあるウイスキーをドボドボと注ぎ込む刹那、目の前で爆破テロが巻き起こる。



『トゥモロー・ワールド』A UNIVERSAL PICTURE(c)2006 UNIVERSAL STUDIOS


 ここでセオの進行方向にはドーム型のセント・ポール大聖堂が見え、その「右側」にまるでナイフの尖端が突き出たかのような近代建築がうっすらと見える。今でこそこれはロンドンの最高層シンボル「シャード」であることは一目瞭然だが、2005年の撮影時にはまだ何ら形をなしていない未着工の状態だった(建設期間は2009年から2012年)。美術スタッフが建設計画を調べて映像に盛り込んだことは想像に難くないが、つまるところ本作は、このシャードの姿をいち早く刻んだ映画としても歴史に残る一作なのだ。


 果たして本当にこの場所から同じ風景が見えるのだろうか。試しにGoogleのストリートビューで確認してみると、そこでは大聖堂とシャードの姿がはっきりと目視できた。ただし、『トゥモロー・ワールド』で描かれた風景とは“並び”が逆。実際のシャードは大聖堂の「左側」にそびえ立っているのがわかる。これは果たして作り手側の誤算だったのか、それとも確信犯なのか。真相は謎のままだ。



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