2017.11.14
『ブレードランナー2049』あらすじ
2049年、貧困と病気が蔓延するカリフォルニア。人間と見分けのつかない《レプリカント》が労働力として製造され、人間社会と危うい共存関係を保っていた。危険な《レプリカント》を取り締まる捜査官は《ブレードランナー》と呼ばれ、2つの社会の均衡と秩序を守っていた―。LA市警のブレードランナー“K”(R・ゴズリング)は、ある事件の捜査中に、《レプリカント》開発に力を注ぐウォレス社の【巨大な陰謀】を知ると共に、その闇を暴く鍵となる男にたどり着く。彼は、かつて優秀なブレードランナーとして活躍していたが、ある女性レプリカントと共に忽然と姿を消し、30年間行方不明になっていた男、デッカード(H・フォード)だった。いったい彼は何を知ってしまったのか?デッカードが命をかけて守り続けてきた〈秘密〉ー人間と《レプリカント》、2つの世界の秩序を崩壊させ、人類存亡に関わる〈真実〉が今、明かされようとしている。
Index
- “Retirement”は“引退”か“解任”か“廃棄”か?
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ルトガー・ハウアーがレプリカントに与えた“詩情”
- “善き人”でありたいと願うレプリカントたちの物語(『ブレードランナー2049』のネタバレを含みます)
“Retirement”は“引退”か“解任”か“廃棄”か?
『ブレードランナー』も『ブレードランナー2049』も、同じ体裁で幕が開く。まず思い浮かぶのは、劇中では誰のものか明示されることのない青い目のアップだろう。 だがその前に、まず画面にテキストが表示され、映画の世界観が簡単に説明される。人類が非常に高性能な人造人間“レプリカント”を開発したこと。反乱を起こしたレプリカントを追う捜査官を“ブレードランナー”と呼ぶこと。そして、ブレードランナーがレプリカントを処刑する行為が“Retirement”と呼ばれていることなどだ。
『ブレードランナー』の原作はフィリップ・K・ディックの長編小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』だが、“レプリカント”なる言葉も“ブレードランナー”なる役職も登場しない。小説の中で人造人間は“アンドロイド”もしくは“アンディ”と呼ばれ、主人公リック・デッカードの職業は“賞金稼ぎ”である。
『ブレードランナー2049』
映画『ブレードランナー』は物語の骨子からして原作から大きく改変されているのだが、この“Retirement”という言葉は原作小説から受け継がれたものだ。これまでの字幕版や吹替版では「処分」「解任」「廃棄処理」などと訳されてきた。『ブレードランナー2049』の松浦美奈氏による劇場版字幕でも「解任」という語が当てられている。ちなみにハヤカワ文庫版『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』では「廃棄処理」となっている。
いずれの訳語が的確かについては、さまざまな意見があるだろう。“Retirement”と聞くと「引退」「退職」という言葉が浮かびがちだが、「廃棄」「除去」といった意味もある。いずれにせよ“処刑(execute)”を歪曲して“Retirement”と言い換えているのは、人間が、自分たちが創り出した“レプリカント”をあくまでも“物”として扱っていることを示している。「解任」という訳は、“レプリカント”は人間から役割を与えられ、それを果たせないなら一方的に職を解かれる(処分される)存在であることを表しているわけだ。