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『ゼロ・グラビティ』から探る、映画における多様な無重力表現 〜後編〜

『ゼロ・グラビティ』から探る、映画における多様な無重力表現 〜後編〜

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『ゼロ・グラビティ』あらすじ

メディカル・エンジニアであるライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)は、ベテラン宇宙飛行士マット・コワルスキー(ジョージ・クルーニー)のサポートのもと、地球の上空60万メートルの無重力空間<ゼロ・グラビティ>で、データ通信システムの故障の原因を探っていた。これが最後のミッションとなるコワルスキーは、いつものようにヒューストンとの通信でジョークを交わし、宇宙遊泳を楽しんでいた。その時、ヒューストンから「作業中止!至急シャトルへ戻り、地球へ帰還しろ!」という緊迫した命令が届く。破壊された人工衛星の破片(スペース・デブリ)が別の衛星に衝突して新たなデブリが発生し、彼らのいる方向へ猛烈な速さで迫っているというのだ。さらに連鎖反応で衛星が次々と破壊され、様々なシステムが壊滅し、ヒューストンとの通信も途絶えてしまう。シャトルに戻ろうとするふたりに、凶器と化したデブリが襲いかかった!


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『ゼロ・グラビティ』における無重力描写



 さて前編が長くなってしまったが、ここからが本題だ。つまり「『ゼロ・グラビティ』の無重力表現は、どうやって実現されたか」である。問題となったのが、アルフォンソ・キュアロン監督作品は『 トゥモロー・ワールド』(06)などに代表されるように、1ショットが非常に長いことが特徴だ。したがって前編で紹介した、連続撮影時間が短い(5)の無重力訓練機では不可能となる。また(2)の回転式セットは、無重力状態を表現しているわけではないので、これも却下された。(4)のガラス板を用いる手法も、アングルが限定されてしまうため論外となる。そこで(1)アニメーションの応用、(3)合成を活用、(6)ワイヤーワーク、(7)クレーンを利用、の手法を組み合わせ、より発展させることになった。


 まず精密なプリビズがCGで制作され、これに基づいた映像を要素別に撮って行く。船外の場面は、ライアン(サンドラ・ブロック)やマット(ジョージ・クルーニー)の顔以外は、CGで作られている。だがその顔も、太陽や地球光の影響を受けるため、肌や眼球への映り込みが必要になる。

 



 そこでまず、VFXコンサルタントを担当していたクリス・ワッツが、2011年にこの分野の世界的権威である南カリフォルニア大学ICTグラフィックス研究所のポール・デベヴェック准教授を訪ねた。デベヴェックは、自由に色が変化させられるLEDライトで大きな球体を作り、中に入った人物を照明する「ライトステージ」という装置を開発した人物である。そしてこのシステムを用いた『ゼロ・グラビティ』のテストが行われ、 ユーログラフィックス2011というCG学会で発表された。ちなみにデベヴェックは、『 ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(監督: デヴィッド・フィンチャー, 08)に協力した際、LEDディスプレイのパネルで俳優を囲って、より完全な照明環境を生み出すテストを行ったが本番では使用されなかった。


 今回は、撮影監督のエマニュエル・ルベツキとVFXスーパーバイザーのティム・ウェーバーによって、デベヴェックのアイデアによく似た「ライトボックス」という装置が考案された。これは4096個のLEDを敷き詰めた約60cm四方のパネルを196枚並べ、高さ約6m、幅約3mの直方体を構成するものだった。このLEDパネルには、プリビズで制作された背景だけのCGが表示される。内部の床には、SFXスーパーバイザーのニール・コーボルドらが開発した、「ティルト・プラス」と呼ばれる紙コップを大きくしたような装置が取り付けられた。そして俳優の身体をこの中に固定することで、自在に回転・傾斜・震動が表現できる。




 この「ライトボックス」を用いることで、俳優の肌の色と明るさの変化や、眼球への映り込みが、周囲の環境と完全にマッチさせられる。ただし、完全に前後左右上下がLEDパネルで囲まれているため、カメラマンが入る余裕がない。そこで、壁面の1つに60cm幅ほどの開口部が設けられ、ここからモーションコントロールカメラのアームが挿入された。このモーションコントロールシステムは、米ボット&ドリー社の IRISという製品を特別仕様にしてもらったもので、産業用ロボットのような多関節アームと長いレールを持ち、複雑な回転運動や高速の移動を可能にした。これに取り付けられたカメラ本体は、ARRIアレクサというドイツ製デジタルシネマカメラである。



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