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『ゼロ・グラビティ』から探る、映画における多様な無重力表現 〜前編〜

『ゼロ・グラビティ』から探る、映画における多様な無重力表現 〜前編〜

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(1)アニメーションの応用



 宇宙空間における無重力の描写に取り組んだ最初期の作品として、『メトロポリス』(27)で有名な独フリッツ・ラング監督のサイレント映画『月世界の女』(29)がある。ドイツ宇宙旅行協会の科学ライターであるウィリー・レイと、ロケット工学者のヘルマン・オーベルトが科学顧問を担当しており、当時としては最新の知識が盛り込まれている。見どころの1つとして、無重力状態で液体を飲む場面がある。このシーンは、抽象アニメ作家として知られるオスカー・フィッシンガーが、球状になって宇宙船内を漂う水滴をアニメーション合成で表現した。ただし飛行士たちは、電車の吊り革のようなもので固定されており、船内を浮遊することはない。


 宇宙工学の創始者コンスタンチン・ツィオルコフスキーのSF小説「地球の外で」(Outside the Earth)を映画化した、ソ連のサイレント映画『 宇宙飛行』(監督: ヴァシリー・ジュラヴリョフ,36)には、低重力の月面を移動する宇宙飛行士の描写が登場する。このシーンでは、人形アニメーターのフォーダー・クラスナーが、(ハルクやジョン・カーターみたいに)ピョンピョン飛び回る飛行士たちをストップモーション・アニメーションで表現した。


 人形アニメーターから実写映画のプロデューサーに転向したジョージ・パル(*1)が製作した『月世界征服』(監督: アーヴィング・ピシェル,50)には、月ロケットから宇宙空間に漂い出てしまった博士を、勇敢な将軍が酸素ボンベをロケット代わりに使って救出を試みる、『ゼロ・グラビティ』の原型と言える場面がある。このシーンのアップはピアノ線で俳優を吊り、引きのショットではストップモーション・アニメーションが用いられた。他にも酔い止め薬の錠剤が船内を浮遊する場面で、セルアニメの合成が用いられた。




 このようなアニメーションを利用した表現というのは、現在ならデジタルダブル(CGによる代役)が相当するだろう。事例は数多くあるが、例えば『ドクター・ストレンジ』(監督: スコット・デリクソン, 16)におけるアストラル・ディメンションの表現などが挙げられる。


*1 ハンガリー出身のジョージ・パルは、パペトゥーンと名付けたリプレイスメント(パーツ置き換え)式人形アニメを制作して人気者になるが、ナチスによる迫害を逃れるため欧州各地を転々とし、1939年に渡米してパラマウントと契約した。『月世界征服』以降は、実写に特撮やストップモーション・アニメーションを組み込んだ長編映画を製作・監督している。その代表作には、スピルバーグがリメイクした『宇宙戦争』(53)、『2001年宇宙の旅』の特撮スーパーバイザーであるトム・ハワードと組んだ『親指トム』(58)、3面式シネラマで初の特撮モノに挑戦した『不思議な世界の物語』(62)などがある。



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