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『ゼロ・グラビティ』から探る、映画における多様な無重力表現 〜前編〜

『ゼロ・グラビティ』から探る、映画における多様な無重力表現 〜前編〜

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(3)合成を活用



 『 月世界征服』と同じくパルの製作による『宇宙征服』(監督: バイロン・ハスキン, 1955)(*2)には、やはり火星ロケットの船外修理を行う場面があり、宇宙飛行士は磁気靴を履いているという設定で船体に貼り付いている。このシーンでは、2人の飛行士シーゲル(フィル・フォスター)とフォドーア(ロス・マーティン)を別々に撮影し、1画面にオプチカル合成した。その時、一方だけカメラを90度傾けて撮っており、それにより身体の方向が異なるエッシャーの「相対性」(*3)的な画面が生まれた(またフォドーアは、この直後に微小隕石群に身体を貫かれて亡くなってしまうが、この場面も『ゼロ・グラビティ』のシャリフ飛行士の遭難シーンを連想させる)。




*2 『 月世界の女』の科学顧問を担当したウィリー・レイは、『宇宙征服』の原作者の1人でもある。

*3 エッシャーの「相対性」とは、複雑に入り組んだ階段の重力方向が、前後左右上下バラバラになっているという版画である。これをモチーフにした映画には、『 ラビリンス/魔王の迷宮』(86)や『 ナイト・ミュージアム/エジプト王の秘密』(14)などがある。



(4)ガラス板を利用



 『2001年宇宙の旅』では、宇宙ステーションに向かうシャトル内でフロイド博士(ウィリアム・シルヴェスター)が居眠りをし、無重力で空中に浮かんだペンをスチュワーデスが拾うシーンが登場する。この撮影時、ペンは透明なガラス板に軽く接着されていた。


 実はこのガラス板を用いたトリックは、前年に公開されていた『 バーバレラ』(監督: ロジェ・ヴァディム, 1968)のオープニング・タイトルバックで、より大規模に用いられていた。無重力で浮遊しながら宇宙服を脱いでいくジェーン・フォンダを、最初は「ワイヤーで吊っているのかな」と思って見ていると、最終的に全裸になってしまう(ハーネスが付けられない)。つまり大きなプレキシガラスの上で演技するフォンダを、真上から撮影しているのだった。



(5)無重力訓練機内で撮影



 ロン・ハワード監督の『 アポロ13』(95)では、本物の無重力(微小重力)状態での撮影が試みられた。これは、実際にNASAが訓練に用いる航空機KC-135の内部にアポロ宇宙船のセットを作り、放物線軌道で飛行させて、最高点前後の20~30秒間に生じるフリーフォール状態の時に撮影するという方法だった。


『 アポロ13』予告


 宇宙空間ではないが、ホラー映画『 ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』(監督: アレックス・カーツマン, 17)では、前半のクライマックスであるC-130輸送機の墜落シーンが、2種類の技法で表現された。1つは、シェパートン・スタジオ内に造った機内のセットで、油圧駆動のジンバル装置に載せて傾きや回転を表現している。もう1つは、実物のエアバスA310の機内にセットを作り、『アポロ13』と同様に放物線軌道で飛行させて撮影している。


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