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『ゼロ・グラビティ』から探る、映画における多様な無重力表現 〜前編〜

『ゼロ・グラビティ』から探る、映画における多様な無重力表現 〜前編〜

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(2)回転式セットの利用



 宇宙SFではないが、フレッド・アステア主演のミュージカル『恋愛準決勝戦』(監督: スタンリー・ドーネン, 51)には、恋に有頂天なトム・ボウエン(アステア)がホテルの壁や天井を移動しながら踊るという場面が登場する。この表現は、回転する円筒の内部にセットを組み、これと同軸でカメラも回転させることで、俳優に働く重力の方向が変化していくように錯覚させるトリックである。


 先ほども述べた『月世界征服』には、この回転セットを外向きに用いた場面が登場する。この映画では、マグネット式の靴によって月ロケットの外壁を歩ける設定になっている。故障したレーダーを船外修理するシーンでは、月ロケットのセットを回転させ、さらにカメラを上下逆にすることで、乗組員たちが足を上にして円筒形の船体上を歩いているように見せている。




 この回転セットが大活躍したのが、『2001年宇宙の旅』(監督: スタンリー・キューブリック, 1968)の木星探査船ディスカバリー号の船内描写だ。この宇宙船は居住区角を回転させることで、遠心力による人工重力が生じるように設計されており、これを表現するために直径約12mの円筒形セットを実際に回転させている。ジョギングをしているボーマン(キア・デュリア)は、常に回転セットの底にいるが、コンソールに着席しているプール(ゲイリー・ロックウッド)とカメラマンは、セットに固定された状態で一緒に回っていた。またこの映画では、月連絡船エアリーズ号の船内で、円筒状の通路を天井までぐるりと歩くスチュワーデス(靴の底がマジックテープになっている設定)も登場する。これは先ほどのディスカバリー号のセットの小型版で、通路とカメラを同期させて回している。


 また、クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』(10)には、夢の中のホテルが無重力状態になるという場面が登場する。そのため回転セットの他に、ワイヤーや様々な支持器具で空中に浮かせた俳優、ダミー人形、CGによる血液の滴などを複雑に組み合わせ、さらに膨大なデジタル修正を加えて不可思議な空間を描き出している。


 この他にも回転セットのトリックは、『ポルターガイスト』(監督: トビー・フーパー, 1982)や、インド初の3D映画『Chhota Chetan』(監督: ジジョ・プンノーズ, 1984)、『ザ・フライ』(監督: デヴィッド・クローネンバーグ, 86)、『ミッション・トゥ・マーズ』(監督: ブライアン・デ・パルマ,00)、『クイーン・オブ・ザ・ヴァンパイア』(監督: マイケル・ライマー, 02)、『アップサイドダウン 重力の恋人』(監督: ファン・ソラナス, 2012)、『スター・トレック イントゥ・ダークネス』(監督: J・J・エイブラムス, 13)など、数多くのホラーやSF映画に用いられてきた。だが基本的に、俳優は壁なり天井なりに“貼り付いて”いるわけで、純粋に無重力状態とは言えない。



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