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圧倒的な“状況”を描き尽くした長回しの裏側 『トゥモロー・ワールド』

圧倒的な“状況”を描き尽くした長回しの裏側 『トゥモロー・ワールド』


ひしめき合う車内、襲いくる暴徒、そして長回し



 この映画が生々しさを追求する上で最も効果を上げているのが“長回し”の活用だ。我々は、未来と聞くと切り返しのスピーディーな編集が適しているように考える節がある。が、キュアロンと撮影監督のエマニュエル・ルベツキが追求したのは、むしろドキュメンタリー・タッチで描かれる未来。とりわけ、この長回しと未来との不可思議なコンビネーションは、息詰まるほどの緊張感をもたらすものとなった。


 本作で用いられる主な長回しは、ロンドンの繁華街で巻き起こる爆弾テロのシーン、走行中の車が暴徒に襲われるシーン、人類にとって実に18年ぶりとなる新たな生命が誕生するシーン、さらにクライマックスに巻き起こる怒涛の戦場シークエンスという4つ。


 公開から12年を経て、これらのシーンがいずれも「完全なるワンカットではない」ことはすでに定説となっているようだ。つまり、キュアロンの盟友アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥが『バードマン』で試みたのと同じように、本作もまた、必要に応じて巧みに映像をつなぎ合わせながら、ワンカットに見えるように仕上げているのである。


 とはいえ、様々な事情を勘案しても、「できるだけ長回しで撮ること」を前提に撮影が行われたのはまず間違いなさそうだ。


 例えば、5人の乗り込んだ窮屈な車が暴徒によって急襲されるシーン(247秒)。キュアロン・チームは専門家に依頼して、長回しに耐えられるような特殊な改造車両をこしらえて、この極度に難しい撮影に挑んだという。



© Photofest / Getty Images  


 その改造過程はこうだ。まずは車の屋根を取っ払って、その上部にキュアロンを始め複数のスタッフが乗り込める空間を作り出す。そこにジョイ・スティックの操作でクルリと回転可能で、なおかつ一人一人の表情を捉えながら前方と後方とを行き来できる特殊カメラを設置。さらに車両の先端部と末端部の二箇所にスタントマンがF1ドライバーのような低い体勢で操縦できる運転席が取り付けられた。これによって俳優らが運転せずとも前進と後進のどちらにも走行可能な状態が整ったのだ。ちなみに狭い車内で俳優たちは座席を逐一倒したりしながらカメラの動線のためのスペースを確保していたという。その一連の速やかな動きはさながらコレオグラフィのようだったとか。


 この一連のシークエンスが終わる頃、カメラはついに外へ飛び出し、我々はここで初めてはっきりと車の全体像を目視することができる。ただし、ここで映し出されるのは撮影に使用された特殊車両ではなく、フィアットのムルティプラ。この“入れ替わり”のトリックからも、映像がどこかで切り替わっていることは明らかなのだが、それがどこなのか一向に分からないところが本作の凄さ。何度見ても究極のマジックを見せられたように呆然とさせられてしまう。



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