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『ゴッドファーザーPARTII』コッポラが脚本に織り込んだ、実際の事件や人物とは
2019.04.18
前作で殺された“カジノ王”に新設定が加わった!
ランスキーをロスのモデルにしたことで、もう一人、大きく浮上することになったキャラクターがいる。『ゴッドファーザー』一作目のクライマックスで、マイケルの指令で殺害されたラスベガスのカジノ王、モー・グリーンだ。
モー・グリーンという名前は、ラスベガスの巨大カジノリゾート化の立役者となったモー・ダリッツ、モー・セドウェイ、ガス・グリーンバウムが由来になっている。彼らはランスキーと強い繋がりを持っていたユダヤ系ギャングで、マフィアからカジノ経営を任されていた顔役たちだ。
ただしグリーンには、名前の由来以上にモデルになった別の人物がいる。伝記映画『バグジー』(91)でウォーレン・ベイティが演じたベンジャミン・“バグジー”・シーゲル。悪名高い殺し屋で、前述した通り、ランスキーとは駆け出しのチンピラだった頃からの友人だった。
「諸説あります」的な細かい解説は長くなるので割愛すると、バグジー・シーゲルはラスベガス初の巨大カジノリゾート、フラミンゴ・ホテルをオープンさせた“ラスベガスの父”。その資金源はマフィアで、金遣いの荒さやオープン直後の経営が思わしくなかったことから、フラミンゴ開業後間もなく組織の粛清で殺害されている。甘いマスクの洒落者で、ハリウッドのスター女優と浮名を流し、映画出演のためにカメラテストを受けたこともあったという。
『ゴッドファーザーPARTII』Copyright (C) 1974 by Paramount Pictures and The Coppola Company. All Rights Reserved. Restoration Copyright (C) 2007 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved. TM, (R) & Copyright (C) 2014 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
『PARTII』の中盤、冷静沈着な策略家であるハイマン・ロスが、一度だけ感情をたかぶらせるシーンがある。賭博ビジネスをめぐってマイケルと駆け引きする際に、マイケルがモー・グリーンを暗殺したことへの怒りをあらわにするのだ。実はロスとグリーンは幼なじみの親友同士で、ロスは親友を殺した因縁の相手をビジネスパートナーにするために、怒りや恨みの感情を押し殺していたのである。
こんな裏設定は、もちろん一作目の時にはなかった。ハイマン・ロスという新キャラと前作を繋ぐための後付けである。しかしコッポラが試みたかったのは、ランスキーとシーゲルが同じ界隈で育った友人だったという事実を取り入れることで、ラスベガスの礎を築いたにも関わらず、忘れ去られた存在になっていたシーゲルという人物にオマージュを捧げることだったという(伝記映画『バグジー』でシーゲルに再びスポットが当たったのはさらに17年後だった)。
ハイマン・ロスを演じたのはリー・ストラスバーグ。マーロン・ブランドやロバート・デ・ニーロらを輩出した伝説的俳優養成所「アクターズ・スタジオ」の主宰者で、アル・パチーノにとっても師匠筋に当たる。ただしストラスバーグがいかに名指導者であっても、前作でヴィトーを演じたマーロン・ブランドのようなカリスマ性があふれ出すわけではない。コッポラにしてもストラスバーグの繊細な演技は予想外だったらしく、ハイマン・ロスのキャラクターは、演者の持ち味に合わせて内省的で静かな人物に変わっていったという。
結果、ハイマン・ロスは『PARTII』における“最強の敵”と呼ぶにはいささか地味な印象なのだが、出番の大半でストラスバーグが抑えた演技をしていることがコントラストとなって、前述のモー・グリーンについて語るシーンで突出した凄みを感じさせることになった。ストラスバーグは本作でアカデミー助演男優賞にノミネート。アメリカが誇る名指導者のキャリアが、一度だけオスカー像に近づいた瞬間だった。そしてコッポラがランスキーとバグジー・シーゲルの友情に着目していなければ、ストラスバーグが映画の中で演技者としての真価を示す機会はなかったかも知れないのだ。すべては数珠繋ぎのような面白い偶然だと思っている。
文: 村山章
1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。
『ゴッドファーザー PART II <デジタル・リストア版>』
Blu-ray:2,381円+税/DVD:1,429円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2019年4月の情報です。
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