2017.09.04
プサン行き、もうひとつの物語
もともとゾンビ映画は社会情勢を映す鑑としての役割もある。ゾンビ映画というジャンルを確立したジョージ・A・ロメロは、ゾンビ映画を通じ、ベトナム戦争へのいらだちや消費社会にむけて警鐘を鳴らしてきた。それは『新感染』でも同様だ。
『新感染』の原題を日本語訳すると『プサン行き』(英題は“Train to Busan”)となる。劇中で登場する高速鉄道はソウル駅を出発し、安全だといわれているプサン駅を目指す。北部で襲撃を受け、治安が維持されている南部へと逃げ進むこのイメージは朝鮮戦争を想起させる。途中の駅で停車した際にゾンビ化した軍隊に襲われるシーンがあるが、ここからも強いメタファーを感じてしまう。事実、ヨン監督は朝鮮戦争時に存在した北から南へ逃げる列車をモチーフとしたことを認めている。エンタテインメントとしての魅力も打ち出しつつ、社会情勢を反映させるゾンビ映画の定石をきっちりと踏んでいるところに、ヨン監督の手腕の高さが窺い知れる。
韓国が抱える“問題”に対して警鐘を鳴らながら、ゾンビ映画というジャンルをまとうことでエンタテインメントとして昇華した『新感染』。ホラー作品として、人間ドラマとして、そして社会ドラマとして、何度でも味わえる作品だ。
文: 久美雪
配給:ツイン
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※2017年9月記事掲載時の情報です。