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『天国から来たチャンピオン』「映画がつく嘘」で陶酔させる
2019.04.14
観客と登場人物の見え方の違いが、テーマにも直結する
そして『天国から来たチャンピオン』の最大の特徴は、映画における「嘘」の表現だろう。
天国から地上に帰された主人公、ジョー・ペンドルトン。すでに遺体が火葬されていたことで、その魂は天使とともに別人の肉体を探す。結局、急死した大富豪のレオ・ファーンズワースに宿ることになるのだが、当然、見た目は違う。しかし同じ魂ということで、同じ俳優、ウォーレン・ベイティがジョーのシーンも、レオに魂が宿ったシーンも演じることになった。
映画を観る側にとっては、魂による同一化がなされつつ、劇中に登場する周囲の人物にとっては、生前のジョーと、蘇ったレオは別人に映っているという「くい違い」が発生している。われわれ観客は、言ってみれば「嘘」の視点で映画を観ていることになるのだ。
『幽霊紐育を歩く』でも、別人の肉体にのりうつった後も同じ俳優(ロバート・モンゴメリー)が演じているが、こちらは「年齢が近く、容姿が似ている」という説明があった。『天国から来たチャンピオン』では、大富豪のレオの外見は観客には見えないものの、どうやらまったく違う見た目であることがセリフで伝えられる。
われわれ観客は、別人の外見のはずなのに同じウォーレン・ベイティが演じることで「魂レベル」で同一人物と受け止めつつ、劇中の人物たちは、別人の外見ととらえているので、ベイティを見て「死んだはずの人が蘇った!」などパニックになる様子がおかしいのである。
『天国から来たチャンピオン』TM and © 1978 Shelburne Associates. All Rights Reserved. TM, ® & Copyright © 2010 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
大富豪のレイ=心はジョーの主人公は、アメフト選手としての復活をもくろみ、金に物を言わせてロサンゼルス・ラムズを買い取り、クォーターバックに戻ろうとする。しかしラムズの面々はアメフト未経験の富豪のお遊びとしか考えない。その状況でレイ=ジョーはどうするか……という物語だが、このような映画の観客と登場人物の見方の差異は、『天国から来たチャンピオン』ではテーマと直結している。そこがすばらしい。
つまり観客は人物の内面を見て、登場人物は外面でしか判断しない。しかし、人間として最も大切なのは、外見ではなく心であるという、さまざまな物語で語られ尽くしたテーマを、独自のスタイルでやってのけてしまったこと。それが、とくにクライマックスで異様な効果を上げ、えもいわれぬ感動を観客にもたらすことに成功している。
外見は認識できなくても、どこか心が通じ合ってしまう……。『天国から来たチャンピオン』のこのクライマックスは、大林宣彦監督の『時をかける少女』(83)で記憶を失ったヒロインが迎えるラストなどと同じように、観終わってしばらく、切なさと甘美な陶酔に包む効果を上げ、いつまでも心に残る作品となった。
文: 斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。スターチャンネルの番組「GO!シアター」では最新公開作品を紹介。
『天国から来たチャンピオン』
DVD:1,429円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2019年4月の情報です。
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