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『サーミの血』知られざる北欧の差別の歴史。新人監督が“自らのルーツ”を通じて描きたかったこととは?

(c) 2016 NORDISK FILM PRODUCTION

『サーミの血』知られざる北欧の差別の歴史。新人監督が“自らのルーツ”を通じて描きたかったこととは?

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知られざるラップランド、迫害の歴史



 劇場の客席に座り、あたりが暗闇に包まれると、私たちは一人の老婆の遠い記憶へと誘われていく。いや、そこに広がる幻想的な映像の持つ力に吸い込まれていく、という表現の方が正しいのかもしれない。


 舞台となるのは北欧、ラップランド。この地には昔からトナカイを放牧して暮らす“サーミ”と呼ばれる先住民族がいる。何も知らない我々からすれば北欧、ラップランド、大自然という言葉の響きだけで何やらナチュラルで健康的なイメージを想起してしまいがちなのだが、実は彼らにはその長い歴史の中で過酷な迫害を受けてきた過去があった。とりわけ20世紀に入ると人々が彼らを「人種的に劣った民族」とする見方が強まり、サーミは差別され、人種生物学における研究対象にされたり、また子供達に対して一般社会から完全に切り離す形で分離教育が行われたりもしたという(*)。こういった社会的圧力の結果、多くの者たちが故郷や文化といったアイデンティティを捨て、自らがサーミであることを隠しながら新たな暮らしを始めることを選択していったのである。

(*)現在では、これらの歴史への反省から、個々の民族への権利保障や福祉改善、サーミ文化を保護するための政策や教育なども充実している。



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