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『ビッグ・フィッシュ』と自分自身の物語【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.37】

『ビッグ・フィッシュ』と自分自身の物語【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.37】


ヘレナ・ボナム=カーター三変化





 若き日のエドワードを演じるユアン・マクレガーもチャーミングだが、この頃のバートンのミューズであるヘレナ・ボナム=カーターの姿も印象的だ。彼女は劇中で何度も姿を変えて登場する。まずはエドワードが子どもの頃に肝試しで訪ねた不気味な魔女の役で、その眼帯の下にある瞳には見た者の死の場面が映し出されるという。エドワードが迷い込む不思議な町スペクターで出会った少女ジェニファーが大人になった姿もヘレナ・ボナム=カーター。また現代パートでウィルが昔のエドワードを知る人物として訪ねていくと、さらに年を重ねた姿で登場する。魔女のメイクもすごいが、違う年代のジェニファーの演じ分けも、とても同時期に撮られたとは思えないほど。この頃の実際の年齢が全然わからない。


 ジェニファーを訪ねたことで、ウィルは初めてエドワード自身以外から彼の物語を聞くことになる。彼女によればエドワードは仕事帰りに寂れた町に迷い込むが、そこはかつて訪れたことのあるスペクターの町だったのだ。住人は裸足で暮らし、明るく幸福な町だったが、今やすっかり荒れ果ててしまった町を、エドワードは方々に働きかけて再建する。その中で、少女から大人へと成長したジェニファーと再会するのだ。ジェニファーはエドワードに惹かれるが、妻子を愛する彼はそれには応えなかった。ジェニファーは孤独のまま年老いて、やがては眼帯をした魔女になる……。


 もちろんそれでは辻褄が合わない。ウィルもそれを指摘するが、ジェニファーはエドワードのように考えるように言う。つまり、エドワードは人生で出会った人々を脚色し、あちらこちらに登場させたのではないか。人物だけでなく、スペクターの町というのも、最初に登場した陽気で美しい光景と、のちに再登場した際の荒れ果てた様子との対比が、なにか人生の中で一度は失われてしまった輝きのようなものを表している気もする。変わり果てた町に迷い込むのが仕事の帰り道というのもポイントだろう。エドワードはそれを綺麗に修復し、再会した少女の元に留まることなく妻子の待つ家へ帰る。そもそも「スペクター」とは、亡霊や幻影といった名前の町だ。実在したというよりはエドワードが過去に置いてきた美しい思い出の象徴のようなものではないだろうか。美しい思い出に触れながらも、彼は愛する妻と息子のために前に進んだのだということを、ウィルは知るのだった。



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