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新たな血で蘇る『ドラキュラ伯爵』※注!ネタバレ含みます。【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.38】

新たな血で蘇る『ドラキュラ伯爵』※注!ネタバレ含みます。【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.38】


ドラキュラという不死身のコンテンツ





 第2話の船上での対決の結果、ドラキュラは海中で意識を失ってしまう。そして、目を覚まして浜辺に辿り着いた彼を待っていたのはたくさんの自動車のヘッドライトやヘリコプターからのサーチライト。人工の照明に焼かれることはなくとも混乱するドラキュラ……。彼はなんと123年の間海の中で眠っており、2020年のイギリスに上陸したのだった。


 こうして最終話の第3話でようやく本シリーズの本題とも言うべき現代パートが始まる。しかしそれはシャーロック・ホームズの舞台を現代のロンドンに移し替えた、というような現代パートではない。19世紀に生きていたのと同じドラキュラが本当に123年の時を越えて現代にやってきたのだ。これは不死身のドラキュラだからこそできる展開だろう。原作に沿った物語から始まり、途中で変則的な展開が入り、舞台が現代に移行する。実にスマートだ。


 現代でドラキュラを待ち構えていたのはシスター・アガサの親戚筋の子孫であるゾーイ・ヴァン・ヘルシング博士。アガサの姓はヴァン・ヘルシング、ドラキュラを退治するかの教授に相当するキャラクターが彼女だったのだ。そして、その意志は現代のゾーイに引き継がれる。演じるのはアガサ同様ドリー・ウェルズ。当然ドラキュラはアガサと瓜二つの彼女にかつての宿敵の面影を見ることになる。


 現代パートになったからには『SHERLOCK』節炸裂というか、例によってドラキュラが現代ツールをどんどん使いこなしていく。ヴァン・ヘルシング博士の施設に囚われながらもタブレット端末を駆使して外部の弁護士と連絡を取るが、このとき呼ばれる弁護士が前述のマーク・ゲイティス扮するレンフィールド。「100年以上生きるのは別に違法ではないが、理由もなくひとを監禁するのは違法」という理屈で伯爵は解放され、現代ロンドンに吸血鬼が放たれてしまう。ロンドンの住まい(恐らく1897年の時点で購入を検討していた屋敷)に移ってからは夜ごとデートアプリを駆使して獲物を探すのだが、一歩も歩かずに食事にありつけるため運動不足になってしまい、不死身でありながら体型維持のためトレーニングを余儀なくされるというところが可笑しい。


 到着するのに123年かかってしまったが、しかし目指していた世界そのものにドラキュラはやってきたと言える。彼が東欧からイギリスを目指したのはさらなる獲物を狙うため、そして世界の中心たるロンドンをおさえることで全てを支配するためだったが、なによりもそこにはより洗練された世界への憧れがあった。第1話でもトランシルヴァニアの地元住人の「味」に不満を漏らし、最初は訛りの強かった言葉もジョナサン・ハーカーの血を吸うことで完璧な英語になり、振る舞いも高貴な紳士へと変貌していく。食事に満足できず、自分の知的水準に見合う対象も見当たらず、古城でひっそりと暮らす伯爵にとって、ロンドンはまさに未来の世界だったに違いない。本作の現代パートに説得力があるのはそのためではないだろうか。どれだけアレンジされていようとも、根本は原作に忠実というわけだ。


 『SHERLOCK』のときにも感じたことだけれど、これほどまでにアイコニックで使い古されてきた有名キャラクターを、こんなふうに新鮮に描き直せるところがすごい。しかも今回は奇をてらった独自のヴィジュアルなどではなく、誰もがよく知る夜会服に黒髪という非常にクラシックで王道的なイメージで。これまで幾度となく繰り返されてきた映像化の中で、多くのクリエイターがベラ・ルゴシのドラキュラ像から逃れようとしてきたと思うが、2020年のドラキュラは基本に立ち返るとともに、話の展開で仕掛けを張り巡らし、新しく、そして怪しい風を吹き入れたのではないだろうか。『SHERLOCK』を生み出したセンスと不死身のキャラクターの組み合わせはばっちりだった。ドラキュラ伯爵は123年を経てもまだ生きている。 



イラスト・文:川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。 

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