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『フェアウェル』ルル・ワン監督 個人主義を評価してきた世界を、立ち止まって考える時が来ている【Director’s Interview Vol.81】

『フェアウェル』ルル・ワン監督 個人主義を評価してきた世界を、立ち止まって考える時が来ている【Director’s Interview Vol.81】

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ピアニスト出身なので、必要以上に音楽にこだわってしまう



Q:映画監督になる前に、クラシックのピアニストだったあなたは、今回、サウンドトラックにも参加しているそうですね。


ワン:そうなんです。今回、作曲を担当したアレックス・ウェストンとは、とても密接なやりとりで仕事をしました。その結果、私もいくつかのパートでピアノを演奏しています。


Q:映画を作る際も「音楽」を重視するのでしょうか?


ワン: 4歳からクラシックのピアノを練習してきた私は、音楽とともに人生を送り、ミュージシャンとしてのキャリアも積んだので、映画を作り始めた頃から、音楽をとても重視してきました。脚本を書く段階で、いくつもの曲を聴き、ここではどんな音楽が流れたらいいかを考えて、そのイメージを作曲家に伝えるわけです。


サウンドトラックはもちろんですが、脚本や編集の段階で意識するのが「音楽的クオリティ」です。会話のリズムや流れを、たとえば「ソナタ形式」などとイメージし、ここでは長い静寂を作ろうとか、シーンを切り替える箇所で重厚で大きな音を加えようとか、とにかく「音」を意識してしまうのです。脚本を書く行為と同じくらい、音をデザインする作業が好きなんですよ。




Q:映画の途中にイタリア語の「カロ・ミオ・ベン」という曲が歌われ、その中の歌詞「Senza Di Te(あなたがいなければ)」が、ラストに名曲「ウィズアウト・ユー」のイタリア語カバー(「Senza Di Te」というタイトル)で流れます。そんな音楽的つながりにも感心しました。


ワン:ありがとうございます。でもそのつながりに深い意味はないですよ。「ウィズアウト・ユー」を選んだのは、カラオケでみんなが歌う曲だからです(笑)。アメリカの曲で世界的に有名だし、ある意味で真っ当な動機で選びました。家族の「ナイナイ、あなたがいなくなったら」という思いを代弁させたのです。


Q:いくつかのシーンでスズメが象徴的に登場します。どこかアジア人的なセンスも感じられました。


ワン:私は「鳥」に何かを象徴させる傾向があるかもしれません。もしあなたが何かの「前兆」を信じる人なら、アメリカで見たスズメを再び中国で見ることで、「意味」を考えるでしょう。でも前兆など迷信だと思っている人なら、目の前の世界をそのまま受け止めるはず。「あぁ鳥がいるね」とスズメに意味を見出しません。私は「前兆」を信じる人のためにスズメを使いました。アジア的感性かもしれませんね。受け止められ方の違いを試したかったのです。



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