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『フェアウェル』ルル・ワン監督 個人主義を評価してきた世界を、立ち止まって考える時が来ている【Director’s Interview Vol.81】

『フェアウェル』ルル・ワン監督 個人主義を評価してきた世界を、立ち止まって考える時が来ている【Director’s Interview Vol.81】

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世界的危機にある今だからこそ、見えてくるテーマも



Q:この『フェアウェル』は、ほぼ全員がアジア系のキャストです。ハリウッドでは同じタイプの『クレイジー・リッチ!』(18)が大ヒットしましたが、あの反響を予想する前に、この設定を決めたわけですよね?


ワン:たしかに、企画を進めていた初期の段階では、すべてアジア系のキャラクターで、英語字幕も入るということもあり、なかなかプロデューサーが見つかりませんでした。でも脚本がナショナル・パブリック・ラジオの人気番組の1エピソードで放送されると大きな反響があり、プロデュースの交渉相手に「私はこのまま作りたい」と主張することができたのです。アジア系キャストのみで撮るという条件を受け入れてくれるプロデューサーが見つかったので、脚本の変更をせずに撮り始めることができました。


Q:アメリカの公開では、A24が配給を手がけています。日本では同社の『ミッドサマー』(19)もヒットしたので、そのつながりで『フェアウェル』も注目されています。A24とのパートナーシップはいかがでしたか?


ワン:A24は、これまで私が好きだった映画を多く手がけ、インディーズ映画配給の「キング」という評判を聞いていました。有能なマーケティング・チームがあり、クリエイティヴな才能が集まっています。何よりすばらしかったのは、「英語字幕が使われるのは外国映画」というアメリカ人の常識を変えようとした姿勢です。アメリカで作られた、アメリカの映画にも、字幕は使われるのだと彼らは観客に教えてくれました。




外国映画はマーケティングが難しい部分もありますが、A24は『フェアウェル』をグローバルな映画と捉えてくれたのです。キャラクターはアジア系で外国語を話しても、「アメリカの物語」という感覚でしょうか。作品に対して、本当に正しい光を与えられたような気がしました。


Q:現在、新型コロナウイルスの感染拡大という世界的危機のなか、『フェアウェル』は日本でも公開されます。このような状況で、作品のテーマが新たに浮かび上がると思いますか?


ワン:日本の皆さんが劇場でこの映画を観られるチャンスがある。それは私にとって、心から楽しみなことです。ウイルスの脅威で明日、何が起こるかわからない状況で、人々は何が大切なのかを改めて考えるはず。そこには家族やコミュニティの絆があるでしょう。


『フェアウェル』で描かれる主人公のビリー、および西洋的な価値観は「個人主義」です。個人主義には美点もあり、ビリーも、そして私自身も夢を追いかけ、言いたいことを言える自由があり、家族への義務も感じず、やりたいことをやる。でもそんな個人主義が行き過ぎると、自己満足で終わってしまいます。こうしたアメリカ的個人主義を評価してきた世界を、ちょっと立ち止まって考える時が来ているんじゃないでしょうか。


アメリカでも現在、個人主義が悪い方向へはたらいている。だから『フェアウェル』でもう一度、家族や周囲の人々との関係を思い出し、一緒に過ごす時間を大切にしてほしいのです。お互いをいたわり、愛する人に負担を与えていないかを少しでも考えてもらえれば、うれしいですね。



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監督・脚本:ルル・ワン

1983年に中国の北京に生まれ、アメリカのマイアミで育ち、ボストンで教育を受ける。クラシック音楽のピアニストから映画監督に転身。短編ドキュメンタリーと短編映画を監督した後、『Posthumous』(14/原題)で長編映画監督デビューを果たす。2014年のインディペンデント・スピリット賞において、チャズ&ロジャー・イーバート・ディレクティング・フェローシップを受賞。また、2014年のフィルム・インディペンデント・プロジェクトの監督に選ばれ、2017年のサンダンス・インスティテュートが選ぶ長編2作目の監督を支援するプログラム“フィルム・ツー・イニシアチブ”に招待される。さらに、「Variety」誌の“2019年に注目すべき監督10人”の一人に選ばれるなど、今最も期待されている監督。長編映画監督2作目となる本作は、2019年のサンダンス映画祭ドラマコンペティション部門でプレミア上映され、数々の賞を受賞している。




取材・文:斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。




『フェアウェル』

10月2日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

配給:ショウゲート

(c) 2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

公式サイト:http://farewell-movie.com/

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