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芥川賞&文藝賞受賞小説×田中裕子×沖田修一『おらおらでひとりいぐも』を作りだしたプロデューサーたち【CINEMORE ACADEMY Vol.12】

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なぜ沖田修一だったのか?



Q:この原作を沖田監督でと、竹内さんが思ったこともすごいですよね。そもそもなぜ沖田さんだったんでしょうか。


竹内:今回の作品は、日常の豊かさを伝えるものであり、桃子さんのセリフにもある「一筋縄ではいかない」キャラクター造形も必要なんです。そのあたりを演出として映像に昇華できる人って考えると、そういないんですよね。そういう意味で、原作と沖田監督の親和性をすごく感じました。


西ヶ谷:沖田監督は、話し相手がいない設定の主人公でもやっぱり人と人との芝居で脚本を作ってきたなと。現場でも、今回は沖田監督の集大成の要素があるなって思いましたね。


途中でちょっと『南極料理人』ぽいシーンも結構あるんですよね。家の中だけでガヤガヤやってるのって、無意識に『南極料理人』ぽくなってるなと思ったりしました。とはいえ、今回はすごく挑戦してますね。着地が見えない中でよく作り上げたと思います。


竹内:桃子さんというキャラクターは、人によっては可愛らしくなり過ぎたりすると思うのですが、沖田監督が描く桃子さんは、ちゃんと逞しさもあり、少しパンクな部分と、おおらかさと可憐さみたいなもののバランスが絶妙。お任せしていれば、もう絶対に大丈夫という安心感がある監督ですね。




Q:脚本の発注の際に、沖田監督にはどういうことを伝えたのでしょうか。


竹内:その当時は、この映画の公開はオリンピックが終わった直後の予定だったんです。オリンピック後の世の中って、大騒ぎが終わって“祭りの後”のような雰囲気になっているのではないかと思っていました。ちょうどそのくらいに、本来ある様々な社会問題がみんなにリアルに突き刺さって来る、とも言われていたので。一体この後どうなるんだという現実を受け止めながらも、ちゃんと地に足を着けた状態で、前向きになるようなメッセージが欲しいなと。そんな観念的なご相談をしていました。


Q:監督を決めることは、少なからず製作予算にも関わってくると思います。その辺の調整は、まさにプロデューサーの醍醐味かと思いますが、今回はどのように進められたのでしょうか。


竹内:力のある監督が、ちゃんとした予算で映画を撮れる道を作るのが、我々プロデューサーの使命だと思います。


「ちゃんとした予算」というものにも捉え方が色々あって難しいところですが、正直に言うとこの作品は、社内の上層部が想定している予算と現場のやりたいことに、すごくギャップがありました。全部はそのギャップを埋めきれず、西ヶ谷さんと西宮さん、撮影をさせていただいた東映撮影所さんやスタッフの皆さんで、色んな工夫をしてもらって、何とか予算内で収めてもらいました。


西宮:四季があって、時代も遡るので、本来は予算のかかる物語なのですが、方法次第では、そんなにお金をかけずに撮ることもできたとは思うんです。でも沖田さんが脚本に落とし込んだ映画ならではの演出は、やっぱりきちんとお金をかけないと出来ないね、ということになり。


VFXが必要なシーンも多かったですし、桃子さんの暮らす家は大胆な場面転換があるので、大掛かりなセットを組まなきゃいけないから、予算とのせめぎ合いになってくる。

 

竹内:物語としてはそうなのかも知れないけど…、やっぱりあの面白い脚本を読んだら、もう…。 


西ヶ谷:結局最終的には、この原作を映画化しようじゃなくて、この脚本を映画化しように変わったんです。


Q:監督に対して、シーン削減などの相談はされなかったのでしょうか。


西宮:みんな削りたくなかったんですよね。ただお金はないからどうしようって、スタッフみんなで考えてくれました。


西ヶ谷:ここは絶対やるって決めて、でも予算を抑えるために、ここだけは他に手はないだろうかって考えたシーンはあります。


西宮:スタジオにセットを組むとなると、どうしても1日単位で、我々にとっては莫大なお金がかかるんです。でも今回は、東映撮影所の広いスタジオを使わせてもらえたので、贅沢なセットで桃子さんの家の中と頭の中を撮ることが出来ました。 


西ヶ谷:今の若手監督(と言っても沖田監督はもはや若手ではないのですが)って、セットで映画を撮る機会って、なかなかないんです。特にアグレッシブな作品になる程、セットを作れない。今回、東映撮影所さんへ相談にいくと、「うちもアグレッシブな映画をやってみたいんだ」と言っていただき、「今回はセット撮影の経験がそれほど無い監督だし、出来ればやって欲しい」とまで言ってくださったんです。それで、調子に乗ってセット組んじゃった感じでしたね。



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