歌から湿布まで、徹底的に準備する女優・田中裕子
Q:田中裕子主演作と聞くと、これは見たいぞと思うお客さんはたくさんいると思うのですが、そもそもどなたが考えて、どうやって決まったんですか。
西宮:沖田監督の初稿を読んだら、田中裕子さんしかいないと思い、それを伝えたら、沖田監督もぜひお願いしたい!とのことだったので、田中さんにご相談させて頂きました。
桃子さんは原作では74歳なのですが、田中さんはそれよりだいぶお若いんです。でも田中さんより魅力的な桃子さんはいないと思ったので、設定年齢にはこだわらなくてもよいかなと。
Q:田中さんとの初顔合わせの際、とあるシーンの歌を田中さん自身が作ってこられて、その場で歌われたそうですね。
西宮:桃子さんがディナーショーで歌う曲を田中さんが作ってくださることになり、衣裳合わせより前に監督との顔合わせの機会をいただいたんです。監督も我々も、どうやって進めていただくかをご相談しないと、と思っていたら、もう考えてきてくださっていて。小さな声でその場で歌ってくださって。慌てて録音させて頂きました(笑)。歌もうまくて曲も作れるのか、と感動しました。
桃子さんの「46億年の歴史ノート」も田中さんが描いてくださったのですが、絵も力強くて素敵で。方言もあったので、クランクイン前からいろんな準備を進めていただきました。
西ヶ谷:主役を引き受ける時はここまでやるのかと、勉強になることばかりでしたね。
西宮:寂しさを紛らわそうと、桃子さんが地質時代を呪文のように唱えるシーンがあるのですが、顔合わせの時に、時代の表記について質問をされて。なんのことだろうと思ったら、図書館で桃子さんの読みそうな図鑑を借りて、調べてくださっていたんです。図鑑によって表記が微妙に違うというのを田中さんから教えていただきました。
Q:桃子さんと同じように、ちゃんと図鑑まで見ていたんですね。
西宮: そうなんです。そこまでもう準備されているのかと驚きましたし、追いつけていない自分を反省しました。
西ヶ谷:湿布の貼り方の研究もすごかったよね。
西宮:そうですね。桃子さんが自分の腰に湿布を貼るシーンがあるのですが、脚本には「モーラステープの職人芸、再び」って書いてあって。文章としては面白いんですけど、実際はただ湿布を貼るだけなので。
Q:湿布を貼るだけですが、確かにそのシーンは面白かったです。
西宮:「モーラステープの職人芸」ってどんな貼り方?ってなって、沖田さんがイメージしていたモーラステープで実際にやっていただいたら、薄いから背中に貼ろうとするとぐちゃぐちゃになってしまい。いろんな湿布を買ってきて、一番貼りやすいものを探しました。
西ヶ谷:いくつか種類を並べて田中さんがやってみるんだけど、どれもやり辛いってなったら、今度は監督自ら夜中に全部の湿布を試してるんですよ。これだったらいけるんじゃないかって。
西宮:結局、監督のお母さんがいい湿布を持っていた。ってなって、それを使いました。昔からある厚めの湿布です。
西ヶ谷:田中さん、衣装合わせで湿布に一番こだわってましたね。
西宮:こちらとしては、湿布を何枚か用意すればいいって簡単に考えちゃうけど、実際にお芝居される側からしたら違いますよね。
Q:あのシーンは、そこまでのこだわりから生まれたんですね。
竹内:桃子さんの生活圏はどこを想定していているのか、撮影前にご自身でその生活を確かめたいとのお問い合わせも田中さんからいただいてましたよね。
西宮:これも顔合わせの時の話ですが、桃子さんの家はどの辺りにあるイメージなのかご質問いただき、原作ではこの辺りのようですとお答えしたら、原作ではなく監督のイメージは?と、おっしゃられて。沖田監督がどんなイメージを持っているのか、ということを、最初からすごく大事にしてくださっていたように思います。