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『ジャイアント・ピーチ』の仕掛け絵本的魅力【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.53】

『ジャイアント・ピーチ』の仕掛け絵本的魅力【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.53】

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キリギリス、クモ、ジャック船長






 本作の虫たちは、このあとにピクサーが『バグズ・ライフ』で描いたような、手足が2本ずつで目がぱっちりと大きい、かわいくデフォルメされた虫では全然ない(かわいさのタイプが違う)。前述のムカデだけでなく、テントウムシやキリギリスも腕の数に遠慮がなく、昆虫なので2本の脚に加えて腕が4本ある。アニメーションであることを考えたら、腕の数が多くて、さらにそれぞれが細かい動きをするというのは素人目にも大変そうだ。そこだけ見てもストップモーションとしてのレベルの高さとこだわりを感じられる。


 キリギリスの造形は擬人化としては普遍的なイメージだが、昆虫的で硬さのある顔ながら表情豊かだったり、モノクルで片目が拡大している演出、知的なキャラクターがいい。ジェームスには親切で優しいが、粗野でおしゃべりなムカデとは最初のうち反目し合っているのもエッジが効いている。どことなく顔がセリック自身に似ているところもおもしろい。


 擬人化の見事さで言えばいちばんはクモだろう。恐ろしげなイメージと暗さのあるキャラクターがぴったり合致し、ベレー帽やスカーフ、体のボーダー柄、長い脚にはヒールの高いブーツと、クモのフォルムを残しながらも服装がとても決まっている。顔はと言えば、ひとつの眼窩に目をふたつ入れることで、人間らしい顔のままクモの複眼を再現しているのだが、クモをこんなに美人に描けるセンスがすごい。陰気で冷淡な様子で、ほかの虫たちとは少し距離を置きながらも、本当は優しい心の持ち主だというのも素敵だ。序盤の実写パートではジェームスの前に本物のクモとして現れ、虫嫌いの叔母さんたちに退治されないように逃してもらうのだが、ぼくもクモは見つけ次第逃がすよう心がけている。


 そんなクモとジェームスが、海中で眠る沈没船に羅針盤を探しに行ったムカデを助けに向かうシーン。そこでムカデを捕らえていたのはガイコツの海賊たちなのだが、そのリーダーである「ジャック船長」とは、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の主人公ジャック・スケリントンの顔をそのまま流用したキャラクターである。


 ストライプ柄のタキシードではなく、ぼろぼろになった服から骨の手足を伸ばし、長い顎髭をたくわえて大きな海賊の帽子をかぶった姿だが、このスタイルもカボチャ大王やサンタ・クロースの格好などと並んで、ジャックのいちバリエーションとしてフィギュアになっていたりする。格好も違う上一言も発しない、ちょっとしたゲストに過ぎないが、『ナイトメアー~』以外では貴重な出演シーンである。


 思えばジャックもまた虫、それもクモのように長い手足が特徴的で、『ナイトメアー~』本編で見られる動きは優雅でかっこいい。『ジャイアント・ピーチ』ではそれがキリギリスとクモのふたりに分けられているような印象だ。ジャックの造形はもちろんバートンによる絵から生まれたものだが、ぼくたちが画面を通して観たその繊細で「生き生き」とした動きは、やはりセリック作品と呼ぶべきアニメーションだったのだ。




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