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『ジャイアント・ピーチ』の仕掛け絵本的魅力【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.53】

『ジャイアント・ピーチ』の仕掛け絵本的魅力【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.53】

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実写パートにも息づくおとぎ話感





 ミュージカル要素も本作の魅力のひとつ。アニメパートでジェームスと虫たちによって歌われる「夢の暮らし」、「桃を食べよう」、「ファミリー」はどれも印象的で、それぞれの場面やキャラクターたちの心境を楽しげに伝える。音楽を手がけたのは『トイ・ストーリー』をはじめピクサー作品の作曲でも知られるランディ・ニューマンで、実は『バグズ・ライフ』の音楽も彼。やはり同時期の虫アニメとしてこの2作は並べたくなる。どの曲も好きだが、やはり虫たちが広い世界への憧れを歌う「夢の暮らし」が愉快。


 虫たちの造形や音楽など、魅力はたくさんあるが、最初にも書いたようにストップモーションで虫を描くという組み合わせが、映像に魔法を与えていると思う。虫たちの小さな世界を描くのに、ミニチュアを撮影するという手法が合っているのだ。虫たちが住み着いていた桃の内部など、たとえ壁が甘くて美味しくなくとも住んでみたいと思わせる暖かさに満ちている。中央で床板の役割を果たしている日時計や、ツチボタルが入っているカンテラなど、虫との縮尺をそれほど考えていない調度の大きさも、思い切りがよくて好きだ。


 アニメパートがそんなふうに素敵なのは、直前までジェームスが置かれていた世界が灰色でくすんでいたからでもある。しかし、実写パートで描かれる世界も現実的すぎず、どこかおとぎ話っぽい。枯れた桃の木が立つ叔母さんたちの家の外観もほとんど魔女の住処のようだし、ジェームスがようやく辿り着いたニューヨークの街並みも、書き割りのビルが並ぶ作り物っぽい雰囲気だ(エンパイア・ステート・ビルの先端に刺さった桃を地上に下ろすため、ビルよりも高いクレーンがやってくるのがまたいい)。


 確かに実写パートが一切かわいらしさのない、現実的な現実の世界だったら、アニメパートとの対比がかなり際立ったかもしれないが、しかしよく考えればジェームスと虫たちの冒険は別に夢の中の出来事なんかではなく、ジェームスがニューヨークの人々に語ったように現実に起きたことだ(それを気の毒な妄想と一蹴するのは、ニューヨークまで「車で」追いかけてきた叔母さんたちである)。その証拠に、最終的にはひとと同じ大きさの虫たちがジェームスとともにニューヨークで暮らし、それぞれ思い描いていた人生を手に入れる。


 出発と到着を実写、冒険そのものをアニメで描くという手法は、まるで平坦なページから精巧で色とりどりなイラストが立体的に飛び出す、仕掛け絵本のような作りにも感じられる。最初から実写とアニメに境目はなく、それぞれのパートが剥離しすぎないよう調和が取られているからこそ、ひと繋がりの物語として一冊の絵本のように仕上がっているのだと思う。



イラスト・文:川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。 

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