『テーラー人生の仕立て屋』ソニア・リザ・ケンターマン監督　プライドに縛られていると、新たな道を見つけるのは難しい【Director’s Interview Vol.138】

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2021.09.02香田史生

体面を気にして使う、無駄なエネルギー

Q：歴史とプライドを持った中高年の職人が、キャリアチェンジを図るのは並大抵のことではありません。映画ではその挑戦を優しい眼差しで描いており、勇気をもらった中高年の方は多いのではないでしょうか。

ソニア：プライドに縛られていると、新たな道を見つけるのは中々難しいですよね。ニコスは子供のような心を持っているので、自分の行動に恥ずかしさを感じないんです。彼は自分の仕立て技術を維持することしか頭にないので、他人が自分をどういう風に見ているかなんて、全く気にしない。

また彼は、ウェディングドレスを仕立てに貧しい地域にも出向きますが、彼は全く偏見がなく、社会的地位に関係なく人と接することができる。彼が人を色眼鏡で見ないところにも、注目してもらえると嬉しいですね。

Q：世の中の多くの人たちはニコスとは逆で、どうしても体面ばかりを気にして、職種やキャリアに集中してない部分があるのかもしれないですね。

ソニア：私たちは、自分が他の人からどう見られているのかを気にして、それに無駄なエネルギーを使ってしまっている。本当にもったいないと思いますね。子どもたちはそんなことがないから、自分の気持ちや感情を自由に表現することができる。でもこれは、私たちの人生の中でもすごく難しいことだと思っています。

Q：この映画は「笑って心にしみるハートフルコメディ」という形を取っていますが、今お話してくださったように、いろいろな社会問題を下地に含んでいますね。

ケンターマン：ギリシャの金融危機で、個人や中小の商店が衰退してしまったという事実があります。だからそれについて、この映画の中で少しは触れたいと思いました。そういった商店を政府が投資して助けてあげないと、経済や社会そのものが、以前と全く違ったものになってしまう。そういう問題がギリシャにはあるんです。そこに気付いて欲しかったこともありますね。

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監督・脚本：ソニア・リザ・ケンターマン

1982年8月29日生まれ。ギリシャ出身。ドイツ人の父とギリシャ人の母を持つ。アテネで社会学の学士号を取得した後、ギリシャのスタヴラコス映画学校と、イギリスで最も古い映画学校であるロンドン・フィルム・スクールで映画製作を学ぶ。彼女の卒業制作である短編映画“Nicoleta”（12・原題）はギリシャ映画アカデミー賞で最優秀短編映画賞にノミネートされた。41の国際映画祭に出品し、合計15の賞に輝く快挙を成し遂げた。今までに8本の短編映画を手掛けており、長編映画は本作が初めてとなる。ギリシャを拠点に、2本目の長編映画を製作中。

取材・文：香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ　魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。