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『テーラー 人生の仕立て屋』ソニア・リザ・ケンターマン監督 プライドに縛られていると、新たな道を見つけるのは難しい【Director’s Interview Vol.138】

© 2020 Argonauts S.A. Elemag Pictures Made in Germany Iota Production ERT S.A.

『テーラー 人生の仕立て屋』ソニア・リザ・ケンターマン監督 プライドに縛られていると、新たな道を見つけるのは難しい【Director’s Interview Vol.138】

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アテネに店を構える、高級スーツ専門の老舗の仕立て屋(テーラー)。これまで父子ふたりで店を守ってきたが、折からの不況で客は来ず、店は銀行に差し押さえられ、父はとうとう倒れてしまう。店を守るため、息子のニコスが取った方法とは…⁉︎


期せずして一人となり、危機に陥ってしまった中年男性の奮闘を描く『テーラー 人生の仕立て屋』。本作は主人公ニコスの可笑しくもひたむきな頑張りを、優しい視点で描き出す。手掛けたのは、次世代のアキ・カウリスマキとも評されるソニア・リザ・ケンターマン監督。長編デビュー作にして、この感動作を生み出した監督に話を伺った。


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昔ながらの手法に立ち戻り、自分の未来を見つける



Q:セリフや説明を極力減らしながらも、カメラワークや美術、効果音などの多彩さがストーリーを牽引し、映画を豊潤なものに導いていました。このような映画の作り方をした理由を教えてください。


ソニア:それは、今回の主人公であるニコスに理由があります。彼はサイレントなヒーローなんです。自分の父親と二人きりで生活している彼は、友達や話し相手がおらず、自分をどうやって表現すれば良いのか分かっていません。


映画の冒頭、彼はお店の屋根裏部屋に隔離されたような状態で、孤独な生活を送っているのですが、周りにある唯一の存在が、ミシンであり、彼の仕立てに使う道具なんです。そして、そういうものが作り出す音だけが、彼の対話となっていました。ですが物語が進み、彼がお店の外に出るようになって初めて、周りの人との対話が生まれてくるんです。



『テーラー 人生の仕立て屋』© 2020 Argonauts S.A. Elemag Pictures Made in Germany Iota Production ERT S.A.


Q:世界のあちこちで資本主義経済の限界を感じる出来事が起こり、最近では映画『ノマドランド』(21)などからもその片鱗を感じます。直接的に描かれはしないものの、本作の下地にはギリシャ危機があると思いますが、これら経済危機という現況は意識的に取り入れているのでしょうか?


ソニア:おっしゃる通り、今の資本主義に問題があることは事実ですし、今回の映画にはギリシャの金融危機が背景にあります。ニコスの父親が仕立て屋を始めた60年代は、高級店として繁盛していましたが、今では閑古鳥が鳴いており、その技術も衰退の危機に瀕しています。


社会がどんどん進歩して、スマートフォンのアプリ一つで色々な経済活動が行われている中、ニコスはそれとは全く逆の、一対一の物々交換を始めます。仕立てという自分の技能を維持するため、そして自分の境遇を打破するために、お店から外に踏み出し、新たな道を見出していく。物々交換という昔ながらの経済活動に立ち戻ることで、自分の未来を見つけていくんです。



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