“待つ”ラブストーリー
Q:田中裕子さんのために書かれた脚本だそうですが、撮影に臨まれるまでは時間がかかったと聞きました。田中さんの了承は早い段階で取れていたのでしょうか。
久保田:僕が脚本家の青木研次さんに企画の相談をして、二人でやりとりしつつ出てきたのが「待つ女」というテーマでした。お互い口にこそしませんでしたが、その時点で二人の中には田中裕子さんが浮かんでいた。その後二人でシナハンに行って具体的に脚本を書き進め、3ヶ月ぐらいで第1稿が上がりました。それを裕子さんに読んでいただいたところ「やります」と仰ってくれた。それが約7年前です。だからまぁ、完成まで随分お待たせしてしまいましたね。
Q:7年前の脚本と撮影前の脚本で違いはありましたか。
久保田:もちろんあります。当初は資金集めに難航して座組みも色々と変わったので、その経緯で内容的にエンターテインメントな波を足したこともありました。その後、要素を削ぎ落としたり残したりを重ねて今の形になりました。最初はもっと淡々とした映画だったのですが、そこに“うねり”が足された感じになっています。
『千夜、一夜』©2022映画『千夜、一夜』製作委員会
Q:以前に田中裕子さんが主演され、青木さんが脚本を書かれた『いつか読書する日』(05)に似た雰囲気も少し感じました。脚本に関して青木さんとはどのようなことを話されましたか?
久保田:『いつか読書する日』は監督の緒方明もよく知っていて、僕もいい映画だなと思っています。あのときの裕子さんとは年齢も随分違ってきていて、最近は母親役やおばあちゃん役が増えてきている。そんな中で久しぶりに裕子さんのラブストーリーを撮りたいねと、青木さんと話していたんです。この年齢でのラブストーリーとなると『いつか読書する日』とは全然違うものになる。あの映画は女としての生々しさがありますが、今回は“待つ”ラブストーリーで“待つ”こと自体がものすごい恋愛になっている。