予定調和にならない
Q:普段の久保田監督はドキュメンタリー制作の仕事が多いかと思いますが、その場で起こるものを切り取るドキュメンタリーと、「その場で起こること」および「その場」を一から作る劇映画では、大きく違うように思えます。監督自身はその辺りをどう捉えられていますか?
久保田:作業として違うことはたくさんあります。ただ、作り手として僕が面白がっている部分は共通点がある。それは予定調和にならないということ。ドキュメンタリーを撮っているといつも驚かされるし、いつもドキドキさせられるし、いつも慌てる。でもその方が面白い。予定調和なドキュメンタリーって本当に最低ですから(笑)。
劇映画に関しては、その準備をするプロセスで同じような思いを持つことがたくさんあります。例えば、取材した内容を脚本家に伝えると彼らは自分なりの言葉で脚本に起こしてくる。そこには「あぁ、こう来たか」という予測不能な面白さがあるんです。今度はそうやって書かれた脚本を俳優が読むと、俳優なりの解釈をしてくる。監督の解釈を俳優に伝えるのではなく俳優の解釈に委ねることで、現場がとても楽しいし全く予定調和にはならない。特に青木研次の脚本はものすごく「書かれていない」ので、いかようにも解釈できる。そこが魅力なんです。
『千夜、一夜』©2022映画『千夜、一夜』製作委員会
Q:ドキュメンタリーの「その場で起こること」は、実は劇映画でも起こっているんですね。
久保田:そうなんですよ。俳優のちょっとした動きが違うことによって、同じシーンでも全然違って見えることもある。撮影していて僕がなかなかカットをかけないと、裕子さんは違う動きを始めるんです。そういうのはとてもいいですよね。裕子さんと安藤政信さんのシーンでも、カットをかけなかったことにより色んな表情が生まれて来ました。